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コロナ禍で新しいことを始めるよりもそれまでやってきたことを深掘りするほうが幸福度も生活の満足度も高い!?

2021.02.07

 水ようかんを頬張る。ようかん自体が久しぶりだ。なるべく早く食べろということなので小さなプラスチック容器に直接スプーンを入れて一気にかき込んだ。要冷蔵で賞味期限も短いため、土産物として受け渡しできるのは寒い時期に限られるということだが……。

イヤホンを求めて夜の目白通りを歩く

 このご時世だが直接話したほうが早いということで、ちょっとした仕事の“リアル”な打ち合わせがあり今帰ってきたのだが、そこで福井県の名産であるという水ようかんをもらった。とはいえ標準的なものではなく小さなパックになったものが1つだ。確かにフルサイズのようかんを突然もらっても手に余る。

 打ち合わせの場に最近福井県を旅行してきた仕事仲間がいたわけなのだが、彼にしては珍しいというべきなのか、仕事の要素は一切なく純粋に福井旅行を2泊3日で楽しんできたということだ。何でも新幹線と宿がパックになった個人ツアーが安く取れたらしい。はたから見てワーカホリック気味の彼にしては珍しいことである。

 考えても見れば、現在の感染症禍の状況は彼のようなワーカホリックには時間を持て余す状況であるのかもしれない。仕事上の移動や“リアル”な打ち合わせは確実に減っていることから、彼のような仕事人間には何か手応えのない日々が続いているのだとしても不思議ではない。そこでポッカリ空いた手持無沙汰な時間に旅行のスケジュールを組み込んだということだろうか。彼はいつも忙しくしていたいタイプの人間なのだ。

 ともあれ、こうしてありがたく福井の名産に舌鼓を打たせてもらったのだが、さて、今日は部屋でもうひと仕事しなければならない。それほど急ぎの仕事というわけではないのだが……。

 作業の1つで、とある英語のユーチューブ動画を視聴する必要があるのだが、パソコンに繋いでいるアナログのステレオイヤホンの調子が悪いようだ。よく見るとコードの一部で銅線が露出していて今にも断線しそうになっている。どこかにイヤホンの買い置きがあったかとも思うのだが、どこに仕舞ったのかすぐにはわかりそうもない。

 少し部屋の中を探してみるが、案の定というべきか同じように壊れたもののまだ捨てていなかったイヤホンやヘッドホンが出てくる。捨てないで置いてあるということは、ひょっとするとまだかろうじて使えるものなのかもしれないが……。

 急場しのぎの安いイヤホンでもじゅうぶんだ。近くの100円ショップに出向くことにした。時刻は夜7時半を過ぎていた。現在飲食店の多くは午後8時までに閉まってしまうが、100円ショップならそんな心配は無用だろう。

 コートを羽織って外に出る。陽が落ちた1月の夜の街は先ほどよりも一段と冷え込んできている。

 JR目白駅前の人通りは“宣言前”に比べればやはり少ない。感覚としては3割減といったところか。早くも店じまいをしている飲食店もあれば、よく見ると一時的に休業している店舗や、テナント募集中の路面物件もいくつかある。そういえばこの通りの某牛丼チェーン店と某中華チェーン店が最近になって相次いで閉店になっている。通りを照らす明かりも減って寂しくなった感は否めない。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 ようかんをくれた仕事仲間と同じように、世の人々の多くは“コロナ前”には感じることのなかった所在無い時間を今経験しているのだろうか。とすればこんなご時世のこんな時間に、仕事で使うイヤホンを買いに街を歩いている自分は、実はひょっとすると立派なワーカホリックであるのかもしれないが……。

 いつも通り営業していた100円ショップでイヤホンを2つ購入する。来た道を引き返し家路に向かう。

 この後ひと仕事が待っていることから、どこかで何か食べてから部屋に戻りたい気もしてくるが、今の状況では望むべくもない。午後8時も目前で、飲食店のラストオーダーはとっくに終わっている。

忙しさに身を置けばコロナ禍をやり過ごせるのか?

 コンビニに寄って何か食べるものを買って帰ろうとなんとなく考えていたのだが、帰路の交差点に往きでは目には入らなかったタイ料理店が見えてきた。店先には「TAKE OUT」の貼り紙もある。

 この店の存在は前から知ってはいたが、これまで入ったことはなかった。決してタイ料理が苦手なわけではなく、むしろ好きなほうだ。単純に機会とタイミングを逸していたのだ。とすれば、今がまさにその機会ということなのだろう。

 店先の調理場の窓辺に置かれたガラスケースに作り置きの料理がいくつか並んでいる。窓の横の貼り紙には数種類のテイクアウトメニューが記されていた。

※画像はイメージです(筆者撮影)

「マサマンカレー」をテイクアウトした。これはもう何年も食べていないカレーで、メニューの文字を見るまですっかりこのカレーの存在を忘れていた。残念ながら今はなくなってしまったのだが、都電の学習院下駅にほど近い場所にあったタイ料理店のマサマンカレーが美味しくて、かつて“マイブーム”だった時期があった。

 こうしてマサマンカレーに出会えたのも、ある意味では現在の感染症禍がもたらしてくれたものであるかもしれない。今までであれば「また今度」と通り過ぎていた店を、テイクアウトという形であれ今こうして利用できているのだ。

 コロナ禍で人の動きと経済が停滞していることは否定できない事実だが、その一方でこのように今までは見逃していた新しいことに出会いやすくなっている側面もあるようだ。今日の状況がなければ、ようかんをくれた彼も福井へ旅行することなどなかったかもしれない。

 こうした移動や経済活動が制限されている状況下においては、その一方では確かにこれまで時間や機会がなくてきなかったことを試しやすくなるともいえる。そしてそうした新しい楽しみに興じているうちにコロナ禍が過ぎ去ってくれれば、なかなか都合がよいとも思えてくる。

 とすれば、現在のこの困難な社会状況の中では新しい趣味を始めるなどして忙しくしていたほうがよいのだろうか。最新の研究はこの問題について実に興味深い示唆をしている。


 新しい調査によると、ロックダウン中に有意義な活動を追求する人々は、単に忙しくしている人々よりも満足していると感じています。

(ロックダウン下において)我を忘れて忙しくしている人々はむしろ、より欲求不満を感じていて、彼らが幸せであったとしても、あまり満たされていないように感じていました。

 ロックダウン中に単に忙しいままであった回答者は、ポジティブな感情とネガティブな感情の両方の増加を報告しました。

 この高められた感情は、一般的な活動から意味のある有意義な活動へと人々を促す傾向があります。

※「RMIT University」より引用


 感染症禍、そしてロックダウン中の日々の生活と暮らしにおいて多くの人々が不安を感じるのだろうが、常に忙しい状況に身を置くことでこうした不安を和らげ、払拭することができるのだろうか。

 豪・ロイヤルメルボルン工科大学の研究チームが2020年12月に「PLOS ONE」で発表した研究では、95人の人々へのロックダウン前とロックダウン中の心理状態と幸福度、そして仕事や趣味などさまざまな活動に費やした時間を報告し、それらの活動が彼らにとってどれほど重要であるかを評価してもらった。

 収集した回答データを分析した結果、ロックダウン中に新しい趣味を始めたり、意図的に仕事量を増やしてして忙しくしていた者は必ずしも幸福度や生活の満足度が高くないことが浮き彫りになった。“コロナ前”からの趣味や仕事をロックダウン中の時間を利用して着々と深堀りした者のほうが幸福度と生活の満足度が高かったのである。ようかんをくれた彼の福井旅行は、残念ながら期待する効果をあげられていない可能性が高いことにもなる。

ロックダウンは“メインテーマ”に取り組む好機

 無事にイヤホンを手に入れ、そしてテイクアウトしたカレーを携えて帰宅した。仕事に取りかかる前にまずは腹ごなしだ。さっそくカレーを電子レンジで温める。昨日にスーパーで買った枝豆の残りを適当な器に入れてカレーのお供にする。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 そうそう、この味である。グリーンカレーとは違うマサマンカレーの風味を、懐かしさを憶えつつ暫し堪能する。ゴロゴロとした大ぶりの鶏肉とジャガイモが美味しくて食べ応えがある。大根が入っているのもなかなか面白い。

 なにかと重苦しい気分になりがちな現在のコロナ禍だが、今タイカレーを食べている自分のように、新しい楽しみを見出して時間をやり過ごすのが得策にも思えてくるのだが、今回の研究によればその作戦はあまり功を奏さないことになる。コロナ禍であるからこそ、以前から興味関心を注いできた“メインテーマ”に取り組むべきであるというのだ。

 しかし忙しくしていることの何がいけないというのだろうか。研究チームによれば忙しくしていると確かに物事を前に進めようとするポジティブな感情も高まるのだが、それと同じくらいイライラしやすくなるなどのネガティブな感情も高まってくるという。ポジティブな感情とネガティブな感情は一本の杓子定規の上で振れる感情ではなく、別々に同時に存在している感情であるというのである。

 感染症やロックダウンに関係なく取り組んでいる仕事や趣味などの“メインテーマ”はポジティブな感情もネガティブな感情も低減させるということだ。そしてポジティブでもネガティブでもないこうした心の状態は、気分の安定に繋がるという。逆に言えば忙しくしていることでは心の平安が得難いことになる。

 久しぶりのマサマンカレーに出会い思いがけずラッキーな食体験になった。今後も機会があるときにテイクアウトで利用してみたい。時間に余裕がある時にはランチタイムにお店の中で食べてみても一興だ。

 食べ終わってからは何か汁物が飲みたくなったので、お湯を沸かしてカップのとん汁を準備する。コロナ禍の中でスーパーの弁当や総菜、そしてこうしたテイクアウトを利用することが多くなったのだが、それに伴ってカップスープやカップの味噌汁なども最近購入することが増えた。これもコロナによる購買行動の“行動変容”であるかもしれない。さっそく湯気が立ち上るカップのとん汁を口をヤケドしないようにゆっくり飲む。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 さてせっかくイヤホンを買ってきたことだし、ひと仕事はじめるとしようか。とはいえ、はたから見れば自分もまたこのコロナ禍のなかで「忙しくしている人」に分類されてしまう気配は濃厚かもしれない。自分では普段通りの日常なのだが……。

 この緊急事態宣言下において忙しくしていることが必ずしも幸福感や充実感に繋がらないのだすれば、今の自分の問題としてもちょっと考え直してみるべきか……。これから取り組もうとしている仕事は必ず今夜やらなければならないというものではないことも確かだ。

 イヤホンを買ってはきたが、考えてみれば作業を明日に回したとしてもほとんどスケジュールに支障はない。実はかなり前に読むのを中断していた長編小説がある。この機会に読書を再開してみるとしようか……。

文/仲田しんじ

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