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【サステイナブル企業のリアル】「環境が変わると従業員のモチベーションも変わる」大川印刷代表取締役社長・大川哲郎さん

2021.02.05

前編はこちら

サステナブル――持続可能であり、環境や資源に配慮し、地球環境の保全、未来の子孫の利益を損なわない社会発展、そんな“サステナブルな社会作り”の取り組む企業が、様々な分野で広がっている。政府も2050年までに脱炭素社会の実現を提唱している。

そこで、「サステナブル企業のリアル」という不定期連載をスタートする。今回はその第1回目の後編である。

株式会社大川印刷 代表取締役社長大川哲郎さん。横浜にある従業員40名ほどのこの会社は2017年から国連の持続可能な開発のための国際目標であるSDGs(エスディ―ジーズ)を取り入れた経営に本格的に舵を切り、FSC森林認証紙の使用率72%達成(2020年12月)、自社工場の再生可能エネルギー率100%達成、CO2ゼロ印刷等々、環境や社会課題解決に繋がる施策を次々に打ち出している。

中小企業でありながら、なぜいち早くサステナブルな社会の実現を強く意識するのか。まず大川社長の情熱があった。

環境に優しい印刷物は紙とインキから

大川印刷の創業は1881年(明治14年)、140年の歴史がある。現社長の大川哲郎は6代目だ。修行を経て26歳で稼業に就いた当時、従業員のモチベーションは低く、「あまり思い出したくない」状態だった。そんな中で2000年初頭、社会課題解決を事業にするという理念で会社を興す『ソーシャル・アントレプレナー(社会的起業家)』という言葉が、大川哲郎の心に刺さる。やがて、本業を通して社会課題を解決していくことが、自社の存在意義という思いを強く意識する。サステナブルな企業を目指して、さてどうしたのか。

具体的に実行したのは2000年になってからで、環境に優しい印刷物という目線で紙とインキに着目した。まず再生紙を利用し、徐々にFSC®森林認証紙や間伐材を使った用紙等、“環境に正しい用紙“を使用に踏み切っていく。

大気汚染の原因になり、人体にも有害な揮発性有機化合物(VOC)が含まれたインキから、ソイインキと呼ばれる植物インキに換えた。当時ソイインキは通常のものより10~15%高かったが、カラー印刷に使う4色のインキをすべて切り替える条件で、価格の据え置きをメーカーと交渉。さらに植物性インキの中にも含まれる、石油系溶剤のゼロ%を目指した。

従業員が、会社が変わったと実感

大川は自社の特徴と、同業他社との競争の優位性を意識して、“環境印刷”という標語を打ち出す。本業を通じて環境負荷を軽減する。そんな呼びかけが、終業時間前にタイムカードの前に並ぶような従業員のモチベーションの低さを徐々に改善していく。

植物インキに代えても、売上げは変わらなかったがある日のことだ。「社長、工場の環境がよくなりました」と、従業員から告げられる。「何がよくなったの?」大川が不思議そうな顔で尋ねると、「空気がよくなりました。臭くなくなった」と。VOCや石油系溶剤の削減で労働環境の著しい改善を彼は実感した。

2012年、西日本のオフセット校正印刷会社の工場で1年以上働いた経験のある元従業員のうち、17名が胆管がんを発症する事態が報じられた。作業に使われていた洗浄液に含まれる有機溶剤ががんの原因とされた。大川印刷ではこの事件が報道される以前の2008年から、印刷機ローラー洗浄剤への有機溶剤の使用を中止していた。

環境印刷が自分たちのためになると、従業員たちが気付き始めると、行動に繋がる。

「売り上げが減少する中で、このままじゃまずいという空気が、従業員の中に漂っていたこともあったのでしょう。お坊さんの例えで“履物がそろうと心がそろう”みたいな言葉がありまして。それは単なる精神論だろうと私は思っていたんです。ところが……

工場に入る時に、靴をはき替えるところがあって、私はいつも脱いだ靴をそろえていた。ある日“あれ…?”、私が脱いだ時よりも、多くの靴がそろっているのに気付いたんです。いつの間にか、自分のやってることに賛同し、黙って靴をそろえる社員が一人二人と増えていた。会社が変わった実感を持ちました」

社会課題解決の取り組みが仕事を創造

――SDGs(エスディージーズ)を経営の柱に据えたのは2017年ですね。

SDGsとは持続可能な開発目標のことで、2015年9月の国連総会で採択された。「貧困を終わらせる」「気候変動を軽減する」等、17のグローバル目標を掲げる。

「本業を通じて社会課題解決に取り組む、ソーシャルプリンティングカンパニーを宣言したのが2004年でした。SDGsの話を聞いて、ついに時代もここまで来たかと、すぐに経営計画に入れました」

――一方でIT化によるペーパーレスの影響等、印刷業界にあまりいい話題はありません。

「コロナ禍で紙はダメ、名刺交換はオンラインでなどと言われ、印刷業界は暗い話題が多い。でも、印刷業界は長い歴史と文化によって、すべての業種や協会とのネットワークがあります。あらゆる業界とパートナーシップを取って、社会課題解決の目標を目指していくにはふさわしい業界なんです」

例えば、「名刺を作らせてください」と営業する。企業の担当者は「うちがプリンターで作るからいいよ」と。そこで「名刺を通して、地域や社会に貢献していると伝える活動をしてみませんか」という提案を伝える。

大川印刷が扱っているバナナペーパーはアフリカ南部、ザンビアの村で取れるバナナの茎の繊維が用いられている。これが普及することで、アフリカの雇用の機会が増え、子供たちは教育や栄養バランスの取れた給食を取ることができる。

そんな説明に、「そうか、うちもバナナペーパーで名刺を作ってみるか」と、応える企業は増えているのだ。

「SDGs等に関心のある企業からの問い合わせも増えている。持続可能性への取り組みを行っている企業は徐々に多くなっています」

持続可能な社会の在り方、社会課題解決への取り組みは、バナナペーパーのような新しいビジネスを生み出していくに違いない。大川哲郎は近未来をそう読んでいるのだ。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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