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非接触対応の店が増えるとサービス業の〝感情労働〟は不要になる?

2021.01.27

 スーパーを出る際に店員さんから深々と頭を下げられる。決して高級百貨店ではない。街の普通のスーパーマーケットでこれほどまでに丁重にお辞儀をされることなどめったにあることではないが……。

スーパーマーケットを出る際にお辞儀をされる

 夕暮れ時のスーパーの前には見慣れぬ人の列ができていた。初めてみる光景であっただけに、最初は何かの限定商品や宝くじなどを買い求めるお客の行列なのかと思ったのだが、近づいてみると入り口に立つマスク姿の店員さんの声が聞こえてきて入場制限をしていることが判明した。この人の列は次のタイミングで店内に入りたい人の行列だったのだ。

 こんな普段使いのスーパーマーケットで入場制限がかかるとは驚く。もちろんこんなことに遭遇するのは初めてだ。確かに昨日も今日も東京都の新規コロナ陽性者数が多く、各種の店舗を中心にこれまで以上に懸念が高まっていることは間違いない。

 当然だが自分も買い物の用事があってここに来たのだが、並んでまでも果たす用事かといえば微妙ではある。しかし今日はこの後、仕事の面では急ぐ用件はなかった。並んでみるのもよいと思い、列の最後尾に加わる。陽も徐々に沈みはじめていて、列を待って買い物を終える頃には日が暮れているだろう。

 買い物の用事といってもたいしたことはない。LED電球だ。このスーパーで扱っているLED電球は安くて個人的に納得できる製品なのである。先日から玄関の照明の調子が悪くなっていて、LED電球にも寿命が訪れるものなのかとある意味で感慨深かったが、10年ほども経っている電球なのでまぁ仕方がないのだろう。

 ……危惧していたほどには待つこともなく、5分ほどで店内に誘導されて買い物を済ませることができた。それでもレジはやはりけっこう並んでいて少し待たされた。

 スーパーの出入り口には数名の店員さんが立っていて、入場制限で不便をかけたことをお詫びしながら店を出る客に頭を下げてお辞儀をしている。普通の街のスーパーでこのような対応を受けるというのも前代未聞のことだ。目下の感染症禍の中ではこれまでは考えてもみなかったことが起こり得るということだろう。店員さんたちの心労には今のところは同情するしかない。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 さて買い物件も終ったことだし、どこかで何か食べてから帰宅するのもよい。すでに陽はとっぷりと暮れた街を池袋駅方面に向かって歩く。時間的にも“ちょっと一杯”をしたいのはやまやまだが、この状況下ではひとまず慎重にならざるを得ない。どこかあまり賑わっていない店で、短時間でサッと食べて帰るに越したことはないのだろう。

 首都高速道路の下の道を右に少し進むと左手に「サンシャイン60通り」が延びている。ここがちょうど通りの“終点”の地点になる格好だ。賑やかな通りなので自然に足が向く。この近辺で何かを食べてもよいのだろう。

 池袋を代表する繁華街であるサンシャイン60通りだが、それでも今回の感染症禍における影響からは免れられていないことが、こうして一見賑やかな通りを見回してみてもわかる。通りの象徴ともいえるゲームセンターの撤退や、某牛丼チェーン店の閉店など若者が入りやすい店や施設がここのところ相次いで失われているのだ。

 日頃からこの通りの店にお金を落としてはいない者が何を言ってもはじまらないともいえるが、ともあれ感染症禍の収束を願うばかりだ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 通りを右に折れて少し進むと、右手に1階がパチンコ店になっている目立つ商業ビルがある。看板を見ると居酒屋や飲食店もあるのだが、6階には回転寿司の店が入っているようだ。このご時世では、極力人に接することなく1人で食べられる回転寿司は良い選択といえるのだろう。エレベーターで6階に上がってみることにした。

回転寿司店で誰にも接触せずに食事を楽しむ

 店に入り無人の受付機のディスプレイで入店客数「1人」と入力すると、席番号が記された案内票がプリントアウトされ、音声で当該のカウンター席へ行くように指示される。動線の各所に据え付けられているディスプレイでカウンターの位置を矢印で順番に表示してくれるという“おもてなし”だ。

 指定された1人用の席に着く。両側に仕切りがあり何だか“自習室”のようでもある。湯呑みに粉末緑茶をひとさじ入れて給湯器からお湯を注ぐ。できたお茶をひと口啜ってから、さっそくタッチパネルで適当に寿司を注文する。ちなみに最初にタッチパネルに表示されているQRコードをスマホに読み込ませれば、スマホからの注文も可能になるようだ。このご時世の中、外出時にあまりモノに触りたくない向きでも安心だろう。

 さっそく注文した品がやってくる。流れている皿にもいくつか手を伸ばす。もちろん期待通りの美味しさだ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 思いつくままに流れてくる皿に手を出し、タッチパネルで気になったメニューを注文して束の間の夕食を楽しむ。完全に一人で完結してしまう食体験である。サービス業の概念が変わるといっても過言ではない。

 普通の飲食店での接客や各種店舗での対面販売などでは、感情労働(emotional labor)が求められることが前提となっている。感情労働とは職務上の接客や対人交流において、自分の感情をコントロールして発露する労力である。そしてこの感情労働には、「表層演技(surface acting)」と「深層演技(deep acting)」がある。表層演技とはある意味で自分の感情を偽って何らかの感情表現を行うことで、一方で深層演技とは本当に自分でもそう思えるほどに、心の深い部分で感情を制御する行為である。

 先ほどのスーパーの店員さんが出口で深々とお辞儀をしてお詫びをしていたケースでは多くの場合、感情労働における表層演技だ。店員さん本人は何も悪くないのだが、店を代表して不便をかけたことを自分の感情はいったん棚に上げて謝罪していたことになるのだ。

 なかなか大変な感情労働なのだが、最新の研究でも度を越えた表層演技がメンタルに及ぼす悪影響が指摘されている。そしてこうした感情労働からネガティブな影響を受けないためには相手と有意義な関係を築き上げられる深層演技の重要性が主張されているのだ。


 感情労働と感情規制の論文に基づいて、そのような感情規制の行為が同僚との間の交流で発生する理由、および生活の満足度と社会資本コストを左右するかどうか、またはそうすることの利点を理解します。

 私たちの研究結果は、特定の従業員(深層演技者)がソーシャルな理由によって同僚との感情を規制するように駆り立てられているのに対し、他の従業員(感情労働者)は印象管理の動機によってより推進されていることを示唆しています。

 私たちの研究結果はまた、非演技者と深層演技者が同様に生活の満足度の利益を得る一方で(すなわち感情的な消耗が少なく、不誠実であると感じ難い)、深層演技者だけが同僚からの強い信頼を得て、目標に向けて前進するという形で社会的キャピタルゲインを経験することを示唆しています。

※「APA PsycNet」より引用


 米・アリゾナ大学をはじめとする合同研究チームが2019年12月に「Journal of Applied Psychology」で発表した研究では、感情労働における4つのタイプを定義し、生活の満足度とソーシャルな対人関係に及ぼす影響を探っている。

 研究チームは教育、製造、エンジニアリング、金融サービスなどの分野に従事する2500人以上のフルタイムワーカーを調査し、感情労働における4つのタイプを浮き彫りにした。その4つとは非演技者(Non actors)、軽度の演技者(Low actors)、深層演技者(Deep actors)、感情労働者(Regulators)の4つである。

 読んで字のごとく、非演技者はほとんど感情労働を行わないタイプで、軽度の演技者は軽度の演技を行う者、深層演技者は深層演技を高いレベルで行うも表層演技は行わないタイプで、感情労働者は表層演技と深層演技のどちらも高いレベルで行う者である。

 この4つのタイプを分析した結果、研究チームは感情労働者に無視できないメンタルヘルスへの悪影響を見出した。表層演技と深層演技のどちらも高いレベルで行う感情労働者は精神的消耗が激しく、結果的に仕事への満足感が得られ難く、生活の満足度(well-being)も低下しているというのである。

完全“非接触”のままキャッシュレス会計で店を出る

 寿司のほかに気になって注文したホッケのフライと茶碗蒸しも到着した。北海道産であるというこのホッケのフライは想像していたよりも美味しい。茶碗蒸しもこの値段であれば文句のつけようがない。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 ある意味で“演技過剰”な感情労働者が抱えるメンタルへのリスクが指摘されているのだが、その一方で深層演技者は長期的に見ればさまざまなメリットを享受しているということだ。

 研究チームによれば深層演技者は、プロソーシャルな理由で相手に対して本心から前向きな関係を築こうとしていることから結果的に信頼されやすく、支援やアドバイスなどのサポートを受けやすいというのである。

 表層演技は主に自分の印象を良くするために行われるのだが、長期的な観点から見ればそれは有意義な人間関係の構築を怠っていることにもなる。虚飾を排して相手とポジティブな人間関係を築くことができればそこから多くのメリットをお互いに与え合うことができるのだろう。

 さて、誰とも接することなく黙々と今宵の夕食が終わりそうだ。この店で働いている店員さんはサービス業でありながら表層演技を強いられる機会はきわめて少ないといえそうだ。そしてもちろんこうした店だけでなく、今後は普通の職場でもそこで働く者が表層演技をしなくて済む環境を作るべきなのだろう。

 さらになんといっても目下の感染症禍である。店員さんともほかのお客さんとも接することのない“非接触”の店のニーズはますます高まりそうだ。入店における心理的ハードルも低く、特に一人で利用しやすいという特徴もある。

 お会計を済ませることにしよう。タッチパネルの「お会計」をタッチし、最初に受付機でプリントアウトされた案内表を持って無人のセルフレジに向かう。音声ガイダンスに従って読み取り機に案内表のバーコード部分をかざし、支払い方法を選ぶ。あえてクレジットカード払いにしてみた。こうした機会にカード払いの一連の手続きを確認してみたい気持ちもあったのだ。

 決済端末機にカードを差し込み暗証番号を入力すると支払いが終了し、レシートが発行される。最初から最後まで誰とも接触することなく、支払いもキャッシュレスで済ませることができた。今がコロナ禍でなければこのお店を選ばなかったかもしれないが、その意味で感染症は少し先の未来を見せてくれるものでもあるのかもしれない。

文/仲田しんじ

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