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パワハラ騒動から1年半。京都サンガでJ1昇格を目指すチョウ・キジェ監督の再スタート

2021.01.22

「一昨年、前チームの湘南ベルマーレで私自身が引き起こしてしまったハラスメント行為について、被害者のみなさまや関係者のみなさまに多大なご迷惑をおかけしたことを、この場をお借りして謝罪いたします。1年半、プロの現場を離れ、さまざまな研修を受け、ここに来ました」

 1月20日に行われた京都サンガの新体制発表会。本人が言うように、湘南時代の2019年8月にパワハラ騒動に巻き込まれ、表舞台から離れていたチョウ・キジェ新監督が久しぶりに公の場に登場。深々と頭を下げ、新たな気持ちで再出発することを誓った。

 2012年から7年半にわたって湘南の指揮を執り、2018年JリーグYBCルヴァンカップ制覇へと導いた名将に降って湧いた騒動に、当初は本人も周囲も驚きを隠せなかった。一時的休養によって事態は収束に向かうかと思われたが、その間にもさまざまな噂が流れ、報道が加熱。状況は深刻化していった。そして同年10月にJリーグが正式にパワハラ認定したことで、彼はJリーグ監督の前提条件であるJFA公認S級ライセンスの1年間停止という厳罰を課されることになったのだ。

 その後、チョウ監督はあらゆる角度から自分自身を見つめ直す努力をした。2019年末には指導者生活の原点であり、教え子である遠藤航(シュツットガルト)のいるドイツを訪問。欧州サッカーの最前線に触れ、学び直しを決意した。2020年春からはJFA技術委員を務める中野雄二監督率いる流通経済大学で実地研修をスタート。都内の自宅から茨城県竜ケ崎市を長時間かけて往復する多忙な生活を送り、弁護士などの座学研修も受けた。こうした過程を経て、彼は「自分自身が変わらなければいけない」という思いを強めていったという。

「研修で講師の話を聞く中で、『僕は強烈なメッセージを出して、ムリヤリ選手を自分の思った方向に向かせていたのかな…』と感じるところはありました。激しい言葉を口にしたり、ホワイトボードを叩いたり、ノートを投げるといった行為がハラスメントだという認識は確かに欠けていた。情熱や闘争心を表現しないといけないというのはつねに意識していましたけど、やり方が間違っていたと気づかされました。
 何が正解かはまだ分からないし、完全に視界が開けたとは言い切れません。正直、指導者全員が知恵を絞っているところだと思います。そういう中でも、僕は新しい指導スタイルを身に着けたいという強い覚悟を持って、のぞんでいます。変化することによって勝利への意欲が薄まってしまったら意味がないので、そうならないように心掛けながら、選手のよさを引き出せるようなアプローチ方法を模索していこうと思います」

Photo by Etsuo Hara/Getty Images

大きな挫折は人間を成長させる

 京都へ赴く少し前、チョウ監督はこんな話をしていた。そして今月、故郷のクラブで新たな一歩を踏み出す決断をした。数あるオファーの中からあえて京都サンガを新天地に選んだのは、「京都というクラブにも町にも大きなポテンシャルがある」という考えからだ。

 日本を代表する古都で彼は小学4年でサッカーを始め、洛北高校でボールを蹴ったが、当時の京都には城陽市のサンガタウンもなければ、亀岡市のサンガスタジアムも存在しなかった。柱谷幸一(拓殖大学テクニカルアドバイザー)・哲二(解説者)ら日本代表クラスの選手は何人か出ていたが、地元にサッカーが根付いていたとは言い切れない状況だった。
 それから30年以上が経過し、松井大輔(サイゴンFC)や宇佐美貴史(G大阪)のようなワールドカッププレーヤーが複数出現。環境面も考えられないほどよくなった。京都サンガというクラブもアカデミー含めて日本屈指のレベルと言っていい。2011年以降は長くJ2に甘んじているが、「この状況は必ず変えられる」とチョウ監督は確信している様子。実際、長く働いた湘南も「万年J2」と言われた2000年代を乗り越え、2010年代はJ1定着を果たしつつある。その経験値は必ず京都でもきっと生かせるはずだ。

 今は強力なサポートスタッフもいる。FC東京やファジアーノ岡山などで長い指導経験のある長澤徹コーチは若手育成手腕に定評があるし、杉山弘一コーチもチョウ監督が浦和レッズでプレーしていた頃からの盟友だ。他のコーチ陣も気心知れている。「湘南時代はスタッフワークが少し足りなかったのかもしれない」という反省のある指揮官にしてみれば、信頼できる仲間たちと同じ方向を見ながら進んでいける現状は確かに心強い。

 加えて言うと、選手も湘南時代の教え子である松田天馬、武富孝介、白井康介、中川寛斗らが大量加入。自身の目指すべき方向性を熟知している面々のアシストによって、チーム作りは早く進みそうだ。一方で、チョウ監督は新体制発表会見で「新加入選手と既存選手が切磋琢磨するのがいいチーム」とも語っていて、昨季在籍組にもより闘争心を出すことを強く求めている。その1人である李忠成も「チョウさんが来てくれればチームの雰囲気がすごく変わると思う。非常に楽しみ」と期待を口にしていただけに、戦う集団への変貌は早そうだ。

「今季、掲げたスローガンは『HUNT3』。HIGH INTENSITY(高い機動性)、ULTIMATE(究極に勝負にこだわる姿勢)、NEWBORN(新しいチャレンジを恐れず)、TOUGH(タフ)に戦い続けるという意味のキーワードです。新しいチャレンジを恐れずタフに戦い、勝ち点3を奪いにいくサッカーをしたい。情熱的なチームを作りたい」と意気込む指揮官は、攻守にハードワークのできるチームを必ずや築き上げてくれるはず。パワハラ騒動からの復活という意味でも広く世間一般から注目される1年になるが、本人は「接した人に『変わった』と感じてもらえるシーズンになるといい」と考えているようだ。

「J1に上がるために最も重要なのは、京都に関わる全ての人の思いを結集させていくこと。そのかじ取り役として自分は大きな責任を背負っていると自覚しています。
 僕は湘南の頃から『夢中に勝る戦術はない』とよく言っていましたけど、選手をどれだけ夢中にさせられるかが勝負だと思います。多くの人が『チョウは湘南スタイルに近いサッカーをするんだろう』と考えているでしょうけど、僕は京都ならではのスタイルを作っていきたい。それができるように、持てる力の全てを注ぐつもりです」
 大きな挫折は人間を成長させる。彼のように自分自身を客観視し、改めるべきところは改め、新たなスタイルを構築していこうという勇敢な姿勢は賞賛されるべき。ここからが真のスタートになるが、厳しさと情熱を合わせ持った名将の再起を多くの人に応援してほしいものである。

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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