
2020年春、日本でのサービスが開始された第5世代移動通信システム、通称「5G」。一部では「世界が変わる」と期待されていた同通信システムだが、昨年はコロナ一色だったこともあって、イマイチ存在感が薄い。もしかすると、本稿で初めて既に運用されていたこと知り「えっ、始まってたの!?」と驚く人もいるかもしれない。
では実際のところ、5Gを利用している日本の消費者はどのくらいいて、また、既に5Gがリリースされている他国と比べてどれほど普及率に差があるのだろうか?
今回、デロイト トーマツ グループは、デロイトのテクノロジー・メディア・テレコムインダストリーが全世界23ヶ国・地域、計37,450人、18歳から75歳を対象に実施した「Digital Consumer Trends 2020」をもとに、分析結果『5Gの各国消費者への浸透状況と日本の現在地』を発表した。詳細は以下の通り。
各国の消費者は5Gをどのように認識しているか
既に5Gをリリースしている日本、中国、オーストラリア、UK、ドイツ、フィンランド、スウェーデン、イタリアでの認識状況を比較すると、「5Gに移行するとモバイル接続はよくなるだろう」という設問に、中国は肯定層が87%、否定層が3%と圧倒的に肯定的な回答が多い。
それ以外の各国では、肯定層が37-58%と半数程度に留まるものの、否定層についても各国のほとんどが10%台と相対的に低く、さらに日本については肯定層が50%、否定層が6%と肯定層が多い。
一方「5Gについてよく知らない」という設問に、5Gが先行している中国でも45%が同意し、それ以外の国でも6割前後は同意しており、具体的な利便性については認識が広がっていない。
また、スマホやデジタルへの依存といった健康リスクへの同意は各国10-20%台であり、懸念が高くない状態である。各国の消費者の半分は5Gを「よく知らない」ものの、上記のように「モバイル環境が良くなる」と肯定的に見ている。
各国の5Gへの乗り換え意欲
5Gの契約者数が2020年8月時点で既に1億人を超えている中国では、5Gを「既に利用している」と回答した人が10%、「私の地域で利用可能になり次第、5Gネットワークに乗り換えるだろう」と回答した人が26%で、両回答を合わせた積極利用層が36%と最も多かった。
次に「既に5Gを利用している」の回答が多かったのはフィンランドの7%で、日本よりも5Gリリースが遅いスウェーデン(2020年5月商用リリース)も6%と、5Gを牽引する主要通信器ベンダーの国では消費者の乗り換えが日本(1%未満)より進んでいる。
各国の積極利用層(「既に利用している」と「私の地域で利用可能になり次第、5Gネットワークに乗り換えるだろう」を合わせた回答)を見ると、イタリア28%、フィンランド21%、オーストラリア21%、ドイツ19%、スウェーデン18%、UK15%に対し、日本は5%とかなり低い。
昨年度の調査結果と比較しても、積極利用層はイタリア、フィンランド、オーストラリアで7-13%増加し、UK、スウェーデンでも4-5%微増しているが、日本は微減の傾向で、5G肯定層が他各国よりも多いにもかかわらず消費者の乗り換えの波は他国よりも遅い。
他国と比べ、日本で5Gが進まない要因としては以下の5点があげられる。
(1) 既存の通信ネットワーク品質に満足している
(2) デジタルデバイスのアーリーアダプターが少ない
(3) エリアカバレッジがまだ十分ではない
(4) キラーコンテンツがまだ見えないため端末・通信料金の価格アップは割高に感じる
(5) 所有率が高いiPhoneだが、5G端末の発売は2020年10月末から
特に、各国のデジタルデバイスの所有/利用状況を比較すると、スマートウォッチ、電子書籍リーダー、フィットネスバンド、VRヘッドセット、スマートスピーカー、その他スマート家電等、すべての項目で日本の消費者が所有している/利用できると回答した割合は各国比較で最も低い。
日本は、5Gサービスにも関心を持つ可能性が高い新しいデジタルデバイスを積極的に試すアーリーアダプターが少ないと言える。
また、日本の消費者は従来からiPhone所有率が高く、2020年10月末の5G対応のiPhone12の発売により、今後5Gの普及が進むと考えられる。ただし本調査ではiPhoneのシェアが昨年から増加しており、調査実施時期(2020年7-8月)に照らすと、2020年4月に発売された4Gの普及価格帯モデルであるiPhone SEの購入によるものと考えられる。
5G対応のiPhone12が発売される以前の半年以内に購入しているため、5G端末への切り替えが次の買い替えサイクルに先送りする層も一定数いるかもしれない。
デロイト トーマツ コンサルティング執行役員 真鍋 裕之氏の見解
日本は他国に比べて5Gの普及が進んでいない。事実ではあるが、現行方式でのエリアカバレッジと利用率の向上は目的ではなく、あくまで前哨戦であり、各国の一種のマーケティング戦略の表れと位置付けられる。
今後、5G本来の価値の発揮に繋がるSA*1やミリ波*2、オープン化/仮想化、6Gも視野に環境が変化する中で、実質的な価値に焦点を当てた競争が各国間で本格化していく。
通信会社など供給サイドにとって競争の土俵は、5G通信ではなく5G時代における情報伝送/処理の全体であり、サービスからデバイスまで幅広いレイヤにおいて海外企業との陣取り合戦が進行している。その土台として、情報の取扱いに関する、日本としての守りとグローバル視点の攻めの両面からのルール作りが急がれる。
一方、生活者や社会の視点では、COVID-19の影響で、リアルとバーチャルの価値変化が進んでおり、5Gの主用途の一つであるXR領域にとって追い風と言える。同時に、国民全体のDXが急務とされる中、社会インフラという観点からのXRの実装の在り方も注視していきたい。
*1 SA(スダンドアローン):基地局だけでなく、コアネットワークも5G仕様の構成にしたもの。NSAが既存の4Gコアネットワークで構成されているのに対し、SAでは5Gの特性をフルに生かすことができる。
*2 ミリ波:日本では5Gに6GHz未満の(Sub-6)と28GHz(高周波、ミリ波帯)の二つの帯域が用意されている。ミリ波は波長が短いため直進性が強く遠くに伝わりにくいが、帯域が広く確保できるため高速大容量通信が可能となる。
<「Digital Consumer Trends 2020」調査概要>
本調査は昨年まで「モバイル利用動向調査」として実施していたものを、よりデジタルにおける消費行動に着目して刷新したもの。「デバイス所有状況」、「スマートフォン利用動向」、「5Gと通信環境」、「COVID-19の消費行動への影響」、「在宅勤務」、「キャリア/店舗」、「ゲーム/サブスクリプション」といったテーマについて下記の概要の通り調査している。
調査形式 :オンラインアンケート(PC、スマートフォン等)
デロイトが設計した調査項目をもとに外部調査会社にて実施
実施対象国:23ヶ国・地域(データの公開を行っていない国が一部ある)
全調査人数:37,450人
調査期間 :2020年4月から2020年8月と国により異なる。
日本では緊急事態宣言解除後の7/28~8/17に調査実施
※本記事で使用したデータにおける主要な留意点は以下の通り:
・UK・ドイツ・スウェーデン・フィンランド・オーストラリア・中国・日本については各国の年齢・性別・地域・社会経済状況を反映したデータとなっている
・対象サンプルの年齢は、日本は18~75歳、中国は18~50歳、UKは16~75歳、その他の国は18~75歳である
・本調査はウェイトバック集計後の数値で表記しているため、合計しても100%にならない場合がある
出典元:デロイト トーマツ グループ
構成/こじへい