
コロナ禍で、ビジネスパーソンたちは、働きながら心身ともにどんなことで悩んでいるのか。産業医へのアンケートでは、最近は「感染症対策」や「メンタルヘルス・ストレス対策」に関する相談が増えているという。
実際、産業医に対して、コロナ禍ではどんな相談が増えているのか、また、不調を感じた際にはどのように対処するのがいいのか産業医に聞いた。
コロナ禍で産業医へ増えた相談内容は?
株式会社エムステージが2020年11月、産業医114名に、企業の産業保健意識の変化や産業医業務のやりがいについてのアンケート調査を実施した。その結果、最近増えている企業からの相談事例は、8割近くが「感染症対策」と回答し、「メンタルヘルス・ストレス対策」に関する相談も増加したという。
TOP3は、1位「感染症対策」78.1%、2位は「メンタルヘルス・ストレス対策」65.8%、3位は「休復職関連」38.6%に。
コロナ感染拡大による社会変化・就労環境変化にともなって生まれるさまざまな問題に対して、企業が専門家である産業医を頼っている姿が見える。
コロナ禍を受けた働く人からの相談状況の変化
実際、コロナ禍の中、産業医のもとへは、どのような相談が寄せられているのか。通常より多くなった相談について産業医の林功さんは次のように答える。
【取材協力】
林 功(はやし こう)さん
産業医/労働衛生コンサルタント
勤務医として臨床に携わる傍ら、複数企業で産業医活動を行っている。
「コロナ禍により、メンタル不調をきたす方の層が一部変わってきているという傾向があります。もともと、特に余暇に活動的だった方がストレス発散の術を失い、うつ状態となったり、仕事面においても適応障害をきたす例が増えていると感じています。逆に、もともとうつ病や不安障害等のメンタル負因を持つ方にとっては、『家にこもる』ことを苦に感じないことが多く、また出社率が減り人間関係のストレスが軽減し、在宅勤務での復帰という選択肢も増えるなどのプラス面もあると言えると思います。そのため相談内容も、もともとアクティブな方からの『環境変化に戸惑っている』といった相談や、コロナ禍におけるテレワークの際の自分なりのストレスケア、 部下と直接会えない状況での上司としての部下のメンタル面のフォローに関する相談、余暇を楽しめない環境におけるストレスとの付き合い方、など、今までにあまりなかった相談が増えてきています」
産業医はどのようにアドバイスしているのか
コロナ禍により、環境変化に対する戸惑いをもととする相談が増えたなか、どのような解決策やアドバイスを提示しているのか。
「もともとメンタル負因を持たない方でも、余暇の過ごし方の変化や在宅勤務の継続といった環境の変化は、初めはかなり負担が大きかったのではないでしょうか。今ではかなり慣れてきた方も多いかと思いますが、在宅勤務や休日を家で過ごすことになったとしても、やはり生活のリズムを保ち、一定の時間に起き、3食バランスよくきっちり食べるといった基本的な部分を守ることが重要です。
また、もともとアクティブな方は特に活動が制限されていると思いますので、運動量の減少から体重増加や健康診断の結果が悪くなったりということもあるのではないでしょうか。その場合は、最近は動画配信サイトなどで自宅で身体を動かす運動やストレッチ、筋トレを紹介するものも多くありますし、感染対策やソーシャルディスタンスを保った上で屋外でのウォーキングなども取り入れると良いと思います。今までできていた活動ができなくても、今できる新たな身体活動を発掘することも大切なことだと思います。
もともと気持ちが落ちたり、うつ症状の出やすいような方は、コロナ関連ニュースや世の中の暗いニュースにさらされること自体がよくありません。そういったニュースに引きずられそうなときには、メディアから距離を取り、身体を動かすなどしてリフレッシュしましょうと伝えています」
コロナ禍で調子がおかしい…と感じたら?
では、コロナ禍で気になる症状が出た場合に、どのような対処をするとよいだろうか。
●不調が出たらメンタルが原因の可能性も疑う
「まず、症状ですが、前述の通り、今回のコロナ禍では今までうつ状態とは無縁の方が当事者になる可能性があります。こういった方は、症状がメンタルというより、不眠、食欲不振や頭痛、胃腸の症状、めまいなどの身体症状から始まり、本人もメンタルが原因と気が付かず、内科などを受診し、改善しないということも多いです。そのため、いつもと違う症状が続く、特に活動が制限されたときに悪化するなどあれば、可能性としてメンタルが原因であることもあるということを頭に置いておくことも重要です」
●限界を感じたら周囲に話す
「その上で、自分なりのストレスケアに限界を感じたら、自分の中だけで処理し切ろうとせず、周囲に話すことが大切です。プライベートでも職場でも、話しやすい方に不調の内容を話し、まずは客観的に体調を見てもらうことが必要です。相談の内容は取り留めもないものでも問題なく、話しやすい方にいつもの通り話すことが大切です。これは、直接でも、電話でも、SNSでもいいと思います」
もし、相談を受ける立場であれば、しっかりと対応することが重要だという。
「特に職場においては対応が非常に重要です。例えば上司や管理側の立場の方が、部下や従業員から相談を受けたら、本人の訴えを基本的には認め、うなずき、決して否定することなく受容することが大切です。このとき、必ずしも本人への提案や改善策の提示は必要ありません。本人の訴えを踏まえ、自分ひとりでの対応がむずかしいと感じたら、本人を適切な相談先へ誘導してあげましょう。社内であれば人事部や相談窓口、産業医など、プライベートであれば本人の家族やクリニックなどがあるかと思います。相談を受ける方がすべてを抱え込むことがないよう意識しましょう」
緊急事態宣言が再発令され、テレワークや外出自粛の機会も増えている。何らかの不調を感じているなら、早めにセルフケアを行い、限界を感じたら周囲に相談することからはじめたい。
【アンケート調査元・取材協力】
株式会社エムステージ
「すべては、持続可能な医療の未来をつくるために」をビジョンに、産業保健・医療人材・医療経営の領域から医療課題の解決を図っている。
https://www.mstage-corp.jp/
取材・文/石原亜香利
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