
ロジカルシンキングは仕事・ビジネスに必要不可欠だといわれるが、いまいちむずかしい。苦手意識を感じる。そんなビジネスパーソンに向け、ビジネスの問題解決能力に必要な思考スキルの身につけ方を、若手ビジネスパーソン向けの人材教育事業を行う株式会社Ex-Work代表の馬渕太一さんに聞いた。
問題解決能力は3つの思考スキルに分けられる
【取材協力】
馬渕太一さん
株式会社Ex-Work代表。京都大学卒。三井物産にて貿易ビジネスに従事後、外資戦略コンサルファーム A.T. Kearneyにて、大手企業の経営戦略立案や自社の採用活動に携わる。現在は起業し、若手ビジネスパーソン向けに人材・教育事業を展開。
https://exwork.jp/corp
仕事やビジネスはすべて誰かの「問題解決」であると言えることから「仕事・ビジネス=問題解決」と言ってもいいでしょう。そのため、問題解決能力が高まれば自ずと仕事ができるようになります。
ただ、一口に「問題解決能力」を高めようと言っても、何をすれば良いかわからないでしょう。そこでもう少し細かく問題解決能力を分解して考えると「ロジカルシンキング」「論点思考」「仮説思考」の3つの思考スキルに分けて考えることができます。
そのため、逆から考えると、この3つの思考スキルを高めることができれば問題解決能力を高められるということです。それぞれについて解説していきます。
問題解決能力に必要な3つの思考スキル
1.ロジカルシンキング
ロジカルシンキングはみなさん聞きなじみがあり、本や研修で学んだ方も多いと思います。でも、普段の仕事では意識して使えているという方は少数ではないでしょうか。仕事で使えるようにするためには、まず『なぜ必要か?』を知る必要があります。
仕事では通常、簡単には答えを出せないお題に取り組みます。
例えば、営業マンは『商品の売上を上げる』ことがお題です。そのときに、いきなり売上を上げる方法を考えるとしたら、『アタック数を増やす』『アップセルをする』などと、ただの思いつきでアイディアを挙げるだけになってしまいます。その場合、他のもっと良い方法を見落としている可能性があります。
このときに、ロジカルシンキングを使って、筋道立てて考えることで、抜け漏れなく網羅的に売上を上げる方法を考えることができます。
例えば「売上」を「顧客数」×「客単価」に分けて考えます。さらには「顧客数」も「アタック数」×「成約率」と分けます。
すると、先ほどは「顧客数を伸ばす方法」のうち、「アタック数」のほうにしか目がいってなかったことに気がつきます。それまで見落としていた、営業トークを磨くなど「成約率」を上げるための方法も考えられるようになります。
このようにロジカルシンキングを使うことで、抜け漏れなく網羅的に、筋道立てて考えていくことができます。
みなさんが聞いたことがある「ロジックツリー」などはまさにこの、抜け漏れなく筋道立てて考えるためのツールです。今回のお話をもとに、ぜひ改めて学び直してみてください。
2.論点思考
「論点思考」という言葉を初めて聞いた方もいると思うので、先に定義をお話しします。
「論点」とは「答えを出すべき問題」を指します。そして「論点思考」は「答えを出すべき問題を特定する」思考法です。
仕事(=問題解決)に当たっては、「答えを出すべき問題を正確に特定すること」がまずは何よりも重要です。
「わざわざ考え込まなくても問題なんてわかるでしょ?」と思った方は、次の「部長に資料の印刷を頼まれた」例で考えてみてください。
あなたが上司である部長に「資料を印刷してきて」という仕事を頼まれたとします。
頼まれた仕事のお題を「資料を印刷して渡すこと」とだけ考えたらそれで終わりですが、このときの部長が抱える「老眼でPCの小さな画面が見えない」という問題を正確に捉えられれば、「PC表示の拡大方法を教えること」でもその問題を解決できます。さらにその場合は、今後部長から頼まれるたびに資料の印刷をするという手間が省けます。
このように「何を“答えを出すべき問題(=論点)”と捉えるか」によって、やるべき仕事が大きく変わります。そのため、まずは問題を正しく捉える「論点思考」が重要です。
論点を特定する際には、「そもそも何が問題なのか?」と大元の問題を考えることがポイントです。
3.仮説思考
先ほどの「論点思考」は、仕事(=問題解決)において、答えを出すべき「問題」を特定する思考法だったのに対して、「仮説思考」は問題に対する「答え」に素早くたどりつくための思考法です。
「仮説」とは「現時点で最も正解に近いと思われる“仮の答え”」を指します。
今回は、あなたが中華レストランのオーナーだとして「売上が低迷している原因は何か?」という問題に対する答えを考えるとします。
このときにやってしまいがちなアプローチとしては、できる限り情報をたくさん集めてから結論を出そうとすることです。
例えば、顧客種類別の来店者数、口コミ、競合レストランの売上、外食産業のトレンド、レストランの事例など関連していそうな情報を手当たり次第集めていきます。そして、そのたくさん集めた情報を前にして、「うーん何が原因だろう」と答えを考えます。
これは「積み上げ思考」と呼ばれる、典型的な遅い仕事の進め方です。この場合、集めたはいいものの、結局役に立たない情報もたくさんあります。
それに対して、仮説思考では「仮説を出す」→「仮説を検証する」プロセスを素早く繰り返すことで、必要最低限の情報をもとに正解を導きます。
例えば、中華レストランの売上低迷の例として「健康意識の高まりにより、特に若い女性層にハイカロリーな中華料理が避けられている」と仮説を立てます。この仮説が正しいかを検証するために、性別・年代別の顧客データ、メニューごとの売上データを集めます。
これらのデータから先程の仮説が正しかったかを検証します。もし違っていた場合には仮説を修正して再度検証します。
このように、仮説を検証するために必要なデータだけを集めることで、必要最小限の情報から答えを導くことができます。これが仮説思考の力です。
ちなみに、私の前職である戦略コンサルタントがなぜ大企業の課題を短期間で解決できるのかというのも、まさにこの仮説思考を使っているからです。
現代では情報があふれ、どんどん問題が複雑化しています。さらには、時代の流れも速くなっています。そんな中、この「仮説思考」を使って素早く正解にたどり着く力がより一層必要になっていきます。
「仮説思考」を習得するには、まずは十分な情報がない中でも仮説を考えてみるという習慣づけが必要です。仮説を持つ習慣ができると徐々にその精度も上がっていきます。
以上が、問題解決能力に必要な思考スキルである「ロジカルシンキング」「論点思考」「仮説思考」の解説です。これらの思考スキルを磨いて、ぜひ問題解決の達人=仕事の達人になってください!
ロジカルシンキングが苦手と感じていた人は、まず何のためにその思考法を使うのかということを今一度見直してみるのがよさそうだ。そして3つの思考スキルを身につけて、問題解決能力を上げ、仕事力を上げよう。
取材・文/石原亜香利
こちらの記事も読まれています