ビジネスの社会的インパクトがますます増大する中、企業は利益のみならず「サステナビリティ(持続可能性)」が重視されている。
「サステナビリティ」に対する意識の変化は消費者の間でも生じている。
2020年にアメリカで実施された調査「サステナブル消費調査によると、「サステナブルブランドの商品を選びたいか」という質問に対し、「YES」と回答した人の割合はベビーブーム世代(1946年~1964年生まれ)が39%だったのに対し、Z世代は62%と大きな差が見られた。
出典:https://www.firstinsight.com/white-papers-posts/gen-z-shoppers-demand-sustainability
サステナビリティが重視されるなか、食に関わる企業がおさえておきたい2021年のキーワードが「Regenerative Agriculture(環境再生型農業)」である。
環境再生型農業(Regenerative Agriculture)とは?
一言でいうと「土壌のみならず、環境や人々の健康をも改善することを目的にした農業手法」
例えば、農地を耕さないで作物を栽培する「不耕起栽培」。
土を掘り起こさないことで土壌侵食が軽減され、有機物を多く含む豊かな土壌に戻り、空気中の炭素をより多く地中に留めることができる。
あるいは、同じ土地で異なる作物を、一定の順序で周期的に変えて栽培する「輪作」。
土の中の栄養素や微生物生態系がアンバランスになるのを防ぎ、炭素を土壌に留める健康な根っこを育てることができる。
環境再生型農業では、こういった農業手法を通し、土壌の改善を促すと共に、農業で使用される肥料、燃料、その他の資源の消費を減らし、さらには環境や人々の健康を改善することを目指している。
アメリカでは食に関わる企業が環境再生型農業に続々と参入
日本ではまだ馴染みの無い「環境再生型農業」だが、アメリカでは食に関わる企業が続々とこの農業手法を取り入れることを発表している。いくつかご紹介しよう。
スターバックス
食品廃棄物を再生可能エネルギーに再利用することを目的とした組織「Farm Powered Strategic Alliance」に創設メンバーとして参加することを発表したスターバックス。
先日開催されたInvestor Dayでは、「2021年春には全ての店舗でオートミルクを選択できるようにする」とも述べており、植物性ミルクの提供などを通じ、2030年までに、グローバルサプライチェーン全体で二酸化炭素排出量の50%を削減することを目指し、積極的にサステナビリティ戦略を推進している。
ネスレ
食品で世界最大手のネスレは、温室効果ガスの削減のため、今後5年間で36億ドルの資金を投じると発表。
2050年までに炭素排出量を実質ゼロとする目標の達成するための計画は主に3つ。
1つが、2025年までに100%再生可能エネルギーに移行すること。
2つ目が、カーボンニュートラル(事業者などの全事業活動から排出される温室効果ガスの排出総量を他の場所での排出削減・吸収量で埋め合わせすること)なブランドを増やしていくこと。
そして3つ目が環境再生型農業への取組みである。森林再生のために10年間で数億本の植樹を実施することや、農家やサプライヤーの環境再生型農業への転換を支援することが練り込まれている。
ブルー・エプロン
アメリカの大手食材宅配会社「ブルー・エプロン」の創設者であるマシュー・ワディアックが立ち上げた食品会社「CooksVenture」
クックベンチャーは、ブロイラー業界で主流の工業用飼育とは全く異なる、鶏の健康と環境に焦点を当てた飼育法を採用。
農地の土壌に1%多い炭素を隔離すると、気候変動を逆転させることができるという、科学的根拠に基づいて設立されたクックベンチャー。
2020年7月には1,000万ドルの資金を調達し、再生農業を促進しながら、農業サプライチェーン全体を改善することを目指している。
食のリーディングカンパニーがこぞって取り組む「環境再生型農業」
このように世界の名立たる企業が取り組む環境再生型農業。
地球環境の悪化が問題となっている現在、食に関わる企業は、「環境負荷を低減するために植物性食品を開発する」「環境に優しいパッケージに変える」という手法だけでなく、根本的に農業手法の見直しをすることも今後求められてくるだろう。
文/小松佐保(Foody Style代表)