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〝情報の海〟に飲み込まれないようにするために必要な「フィルタリング力」

2021.01.11

 街を歩けば知らず知らずに“情報の海”に飲み込まれることになる。その情報は自分にとってほとんどが無関係のはずなのだが……。

板橋区・大山の商店街を歩き“情報の海”に飲まれる

 板橋区某所での所用の帰路、東武東上線を大山駅で降りる。とうに冬至は過ぎているがまだ陽は短く早くも夜の帳は降りている。充実した商店街があるこの街が好きで、機会があれば帰路に寄って“ちょっと一杯”となることも少なくない。もちろん今回もそのつもりだ。

 北口を出て左を道なりに進むと早くも賑やかな界隈に出る。少し歩けばすぐに住宅街になるこじんまりとした私鉄の駅前だが、街の賑わいを演出するのに一役かっているのがパチンコ店だ。個人的にパチンコやパチスロなどはやらないほうだが、パチンコ店のある街の賑やかさは好きなほうだ。パチンコ店は人が集まる集客装置になっている側面もあり、周囲の商店街が充実してくるのも納得できる。通りの左側にあるパチンコ店の向いにはカラオケ店もある。なかなかアミューズメントな一角である。

 通りを突き当たると右を向いても左を向いても賑やかな商店街に出る。飲食店やテイクアウト店が目立つが、整体の店やメガネ店、靴屋やドラッグストアなども店を構えていて、あくまでも地元の商店街であることがわかる。最近は地域開発によって観光地化、テーマパーク化したような飲み屋街も少なくない中にあって、ここは地域に根差した本物の商店街であることがわかる。

 商店街を左に進む。目当ての店があるわけでもないが、食指を動かされる店があれば入ってみてもよいのだろう。

 ステーキ店や牛丼店などのチェーンが目に入るが、個人経営らしき居酒屋も目につく。ポピュラーなとんかつのテイクアウト店もある。目下の感染症禍の中では寿司やとんかつなどのテイクアウトは普段よりも需要がありそうだ。牛丼店から出てきた男性は袋を両手に提げている。

 もう少し先まで歩いてみるつもりだが、いかんせん情報量が多い。飲食店は路面店のみならず2階や3階に構えている店もありよりどりみどりである。2階にある焼肉店もやや気になるのだが、一軒一軒チェックしていれば時間がいくらあっても足りないだろう。

 右サイドにあるまた別のパチンコ店の軒先を通り過ぎながら東上線の踏切を渡る。線路を渡りきると天井のあるショッピングモールが左右に伸びている。この商店街もまた賑やかである。この地点で商店街がカーブしていて、とりあえず右側の方に進んでみる。両側に店舗が立ち並んでいて、ゆっくり歩かないといろんなものを見逃しそうだ。以前何度か入った居酒屋や立ち飲み店もこの近くにあるのだが、今日は新規開拓がしたかった。

 カフェやファミレス、焼き鳥のテイクアウト店、回転寿司店、青果店などを通り過ぎると、右手にドラッグストアが見える。部屋の薬用ローションの残りがあと僅かしかないことが思い起こされる。思い出したついでにここで買ってみてもよかったが、今の自分は“ちょっと一杯”やりにきただけの通りすがりの者だ。あまり荷物も持ちたくないし、ローションが明日切れるわけではないので今は見送ることにしよう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 ドラッグストアの上の階にはサウナ併設のカプセルホテルがある。以前何度かここのサウナに入ったことがあるのだが、今日はちょっと時間がない。最近サウナに入っていないし、入浴料が3時間1000円とお得であることは間違いないのだが、このタイミングで入ってしまえば夜が早くなっている現在の街で、サウナを出た後の行動の選択肢が限られてきてしまうだろう。後ろ髪を引かれる思いもありつつ通り過ぎることにする。“ちょっと一杯”の野暮用で歩いているだけなのに、いろんな案件が浮かび上がってきてしまう。それだけこの商店街の情報量が多いのである。

商店街から少し離れた赤提灯のもつ焼き居酒屋に入る

 さらに商店街を進む。ともかくどこかへ入って一息つくのが先決だ。明日もわりと早い時間から仕事に取りかからなければならないのである。

 派手な店構えのパチンコ店が見えてくる。いったいこの街には何店のパチンコ店があるというのか。その向かいにはとんかつ料理店と韓国焼肉店がある。進んだ先にもまだまだ飲食店はありそうだ。

 飲食店に挟まれて書店がある。書店に入れば確かに買うものはあるのだが、それも同じく今しなくてもよい。書店もパスして先を行く。

 さっきとは別のドラッグストアと100円ショップをやり過ごし、餃子チェーン店や中華料理店なども見えてくるのだがどうにも決めかねる。コイントスでもしてどこかの店に無理矢理入ってみてもおそらく後悔することはなさそうだが、やはり情報量が多すぎて選びきれそうもない。“情報の海”で溺れかかっていると自覚したほうがよいのかもしれない。まぁ大げさな話ではあるのだが……。

 この先、さらに歩き続ければさらなる情報に晒されることになるだろう。いったん立ち止まり、今来た道を引き返すことにした。少し頭を冷やさなければならない。

 駅のほうへと歩きながら以前に入った店を再訪しようかとも思ったのだが、商店街から右に折れる住宅街の暗い道にいくつかの店の灯りが見える。こうした場所にある店に入ってみるのも面白い体験だ。右折して先を進んでみる。

 細い通りだがよく見ると意外なほど店がある。串焼きの店を過ぎてさらに進むとチェーンの焼肉店があり、なおも進むと蕎麦屋にホルモン焼き店、フグとウナギの店もある。そしてその先には店先に年季の入った大きな赤提灯を下げたもつ焼き居酒屋があった。一目見て老舗店であることがわかる。わざわざここまでやって来た甲斐があったことにしたい心理も働いているのか、「もつ焼き」の文字がいつも以上に魅力的だ。入ってみてもよいのだろう。

 店に入ると調理場に沿って長いカウンター席があり、その後ろと奥がテーブル席になっている。特に特徴はないものの年月が感じられる昭和の酒場といった感じだ。カウンターの端に座らせていただく。メニュー表を見てもつ焼き各種、店内のボードにかかれたおすすめメニューの中から刺身の盛り合わせを注文。お酒はホッピーセットにした。

 先に刺身の盛り合わせが来た。ホッピーのグラスを傾けながら賞味する。最初に口に運んだネギトロが美味しい。けっこうボリュームがあってお得である。

※画像はイメージです(筆者撮影)

“情報の海”に溺れないためのフィルタリングがますます重要に

 それにしてもこの店に入るまでに思わぬ時間がかかってしまった。優柔不断だったこともあるが、やはり商店街の盛り沢山の情報量の影響もあるだろう。飲食店を探しているというのに、ドラッグストアやサウナ、書店などにも注意が向いてあれこれ考えてしまった。

 最新の研究でも選択をするにあたって、無関係な情報や実際には選べない選択肢が多いと意思決定に悪影響を及ぼすことが報告されている。つまり単純に情報量が多いというだけで、それがほとんど関係ない情報であったとしても、意思決定を遅らせ不適切な選択をしてしまう要因になり得るというのである。


 この論文は、選択問題における意思決定の最適性に関する、利用できない代替案と代替案に関する無関係な情報を導入することの影響を実験的に調査します。利用できない代替案と無関係な情報の存在は、この効果を増幅する2つの間の相互作用で次善の決定を生成することがわかります。

 どの次元でも無関係な情報は、意思決定の時間コストを増加させます。また、最適な意思決定を行ったり、意思決定の問題に費やす時間を最小限に抑えたいという願望を超えた「シンプルさの好み」を特定します。

※「Springer Link」より引用


 米・レンセラー工科大学とメリーランド大学の合同研究チームが2020年11月に「Experimental Economics」で発表した研究では、222人の実験参加者に40を超える質問をして収集したデータを分析して、関係のない情報や選択不可能な選択肢のある環境で行われた意思決定には、時間、認知、および結果にコストが伴うことを明らかにしている。関係のない情報や選びようのない選択肢という周囲の“雑音”が実際に判断を鈍らせているのである。

 これまでの理解では我々は無関係な情報はたやすく無視して除外できるものであると考えられてきたのだが、今回の研究では大量の関係ない情報に晒されると肝心の意思決定に悪影響を及ぼすことが指摘されることになったのだ。

 研究チームによれば今回もたらされた知見は「選択設計(choice architecture)」についての理解を深めるものになるという。選択設計は選択肢の提示のしかたによって人の意思決定に影響を及ぼすことで、特定の選択に誘うある種の心理操作のテクニックである。純粋な自分の意思で決定したことだと思っていても、その中には巧妙に設計された“誘導”によって選ばされているケースが無きにしも非ずということになる。

 もつ焼きがやってきた。シロとタンだ。いわゆる“2本縛り”で一種につき2本1組となる。その意味では2人で来たほうが良い店かもしれないが、もつ焼きが好きならまったく問題ない。大ぶりのシロは噛み応えがあって美味しい。1杯めのホッピーを空けてしまったので中に入れる焼酎を追加注文する。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 まさにここの商店街のような“情報の海”に飲み込まれた状態で、よりよい意思決定をするにはどうすればよいのか。研究チームによれば、そこで重要になるのは情報のフィルタリングであるという。必要のない情報をいかに事前に排除できるかが重要で、素早く絞り込みを行う能力が問われているのだ。今後ますます広がる“情報の海”の中で、一部の人々は適切にフィルタリングしてくれるサービスに代価を払う心づもりさえあるということだ。

 続いてハツがやってくる。とにかく身が立派だ。よく噛みしめながら味わいたい。もう少ししたら最後の中焼酎をお代わりするつもりだ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 フィルタリングが重要であるという今回の研究によれば、さっきまでの自分が“情報の海”に溺れそうになっていた原因は、一にも二にも絞り込みができていなかったことに尽きる。あまりにも漠然と興味が惹かれるものを場当たり的に求めてしまっていたのだ。店舗の絶対数が少ない場所なら漠然と探すのもいいかもしれないが、とにかく情報が多すぎるこの商店街では事前のフィルタリングが必要だったということになる。

 最終的にこうしてもつ焼きを食べているということは、店選びとしてまず最初に「もつ焼き」、「やきとん」、「焼き鳥」くらいで店を絞り込んでみるべきだったのだろう。そしてドラッグストアやサウナ、書店といったさしあたって無関係な店舗や施設にも心を動かされ過ぎた。まぁそれもまた人情というものでもあるのだが……。

 しかし結果的にこうして美味しいもつ焼きにありつけているのだから何の不満もない。店を探す過程で確かに溺れかかってしまったかもしれないがその結末は満足のいくものとなった。さてこの辺で切り上げることにしよう。まだ店が開いていれば書店とドラッグストアで少し買い物をして帰るとしようか……。

文/仲田しんじ

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