■連載/阿部純子のトレンド探検隊
雪だるまを溶かさず運ぶためのこだわり抜いた専用バッグ
1965年創業、ランドセル職人が立ち上げた工房を発祥とする皮製品ブランド「土屋鞄製造所」が、雪だるまを溶かさずに運べるレザーバッグ「雪だるま専用バッグ」(非売品)を公開した。
2020年7月、ものづくりを通したわくわく感やときめきを伝えたいと、読み物コンテンツ「“運ぶ”を楽しむ -THE FUN OF CARRING-」を公式Webサイトにて公開。第一弾として登場した「スイカ専用バッグ」は、Twitterで1日に約1万リツイート、約2.8万いいねなどSNSで多くの反響があり、海外メディアにも紹介された。
土屋鞄の職人の技によって生み出される、思わず笑顔になるような遊び心のある製品として、スイカ専用バッグに続いて登場したのが「雪だるま専用バッグ」。製作を担当したのは鞄職人の松澤裕子さん。職人が日々磨き続けている技術や知識を生かした、本気の“遊び心”が楽しめる。
美しくなめらかな曲線で、雪だるまを彷彿とさせるデザイン。コートなど冬のコーディネートと合わせてももたつかないように、根革は四角い形状を取り入れ、持ち手も程よく厚みをもたせつつ平たくすることでスッキリとした印象に仕上げている。
球体の雪だるまを運ぶ時はぐらついてしまうため、革で仕立てた専用の台を作り、台の丸いくぼみが雪だるまのボディを支えて安定して運べる。台の端を引っ張れば、ストレスなくスムーズに雪だるまを出し入れすることが可能。
メイン素材に「OTONARANDSEL003」シリーズでも使用している新開発の「防水スムースレザー」を採用。強力な防水剤を革の線維一本一本に浸透させているため、革の表情や質感を保ちつつ、防水性を発揮する。カラーは雪だるまの純白を際立たせる、落ち着いたダークグレー。
内装には保冷バッグに使用されているポリエステル素材を、ファスナーには雪だるまが少し溶けても水の染み込まない止水ファスナーを採用した。いずれも、これまで土屋鞄の製品では取り扱ったことのない素材だが、溶けてなくなってしまう雪だるまを大切に持ち運ぶため、特別に取り入れたとのこと。細部までとことん雪だるまに配慮した仕様になっている。
また、内側のポケットには革製の鼻を収納。金具部分を差し込めば、どこでも好きなところで雪だるまの鼻をつけることができる。
革をカットした断面(切り目)を「コバ」と呼ぶが、微妙な凹凸や貼り合わせの段差を磨き、滑らかに整えたあと、コバ液という専用の塗料で仕上げる。この「コバ塗り」によって、線維のほつれや割れなどを防ぐことができ、美しい光沢感により鞄全体が上質感ある仕上がりになる。
通常はパーツごとにコバの仕上げを施すが、「雪だるま専用バッグ」は、鞄を完成させてからコバ塗りを施しているため、難易度が格段に上がるとのことで、ここでも職人技が活かされている。
【AJの読み】機会があればぜひ実物を見てほしい
「雪だるま専用バッグ」は非売品だが、「#旅する雪だるま」と題して、期間限定で各地の実店舗にて展示を行っている。スケジュールは専用サイトを参照のこと。
東京ミッドタウンにある六本木店を訪れて実物を拝見した。スタッフに声をかけると、バッグの内部を見せてくれて、作りやこだわりなどを詳しく教えてくれた。用途としては雪だるまを溶かさず運ぶ“保冷バッグ”なのだが、レザーの質感やディテールのこだわりなど、職人技が光る美しい造形に驚き。この技術を使えば「アイスクリーム専用バッグ」も可能なのでは!?(レザーのバッグにアイスを入れて持ち運ぶ人はあまりいないと思うが……)。
六本木店は土屋鞄で初めてメンテナンスカウンター「CRAFTSWORK STAND(クラフツワークスタンド)」を常設。土屋鞄の製品を持参した客に、革に詳しいスタッフがブラッシングやオイルケアなどのお手入れをしてくれる(予約不要/無料)。
同様のサービスは他店舗でも実施しているが、六本木店は“鞄職人のアトリエ” をモチーフにしたカウンター越しに、スタッフの作業を見ながら、革製品のお手入れなど、ゆっくりと話ができるスペースになっている。所要時間は15~20分ほど。
文/阿部純子
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