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ハッピーエンディングを期待しすぎると意思決定を誤ることが多い人間の心理行動

2020.12.25

 とうとう旅行らしい旅行はしないまま今シーズンが終わりそうだ。駅や街中では旅を促すポスターが目立つが、近場を巡る“小さな旅”の提案が多いようだ。このご時世であれば仕方ないともいえるのだが……。

最後の箱根旅行を思い出しながら中野駅北口を歩く

 某所での所用を済ませた後、東京メトロ東西線で中野までやって来た。特に明確な目的はないが、そこはまぁ流れのままに“ちょっと一杯”ということになるだろう。午後7時過ぎと時間もいい頃合いである。

 中野駅北口を出る。中野に来たのはけっこう久しぶりだ。以前は週に1度くらいはこの界隈に来ていたが、ここ数年で仕事の内容がかなり変化したこともあって縁遠くなってしまっている。それにしても駅前はこのご時世でもかなりの人出だ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 北口を出ると正面は屋根がある賑やかな「中野サンモール商店街」だが、“ちょっと一杯”の気分なので一本右側の通りに向かう。こちらは「ふれあいロード」になる。それにしても結構な人の出である。

 こうして時間が空いた時には散歩を兼ねて街歩きをしているが、まともな旅行からはすっかり遠ざかっている。気分転換を兼ねて“小さな旅”を計画してみてもよいのだが、計画を立てようとする気分にはあまりなれない。旅をしていないことに何かひっかかりがあるものの、きっと本心ではそれほど旅を求めてはいないのだと判断せざるを得ない。

 そういえば最期に箱根を訪れたのはいつ頃だっただろうか。箱根なら“小さな旅”に相応しいが、かつては何度となく訪れていてそれなりに思い出もある。それで思い出したのだが、一番最後の箱根の小旅行では、帰路の電車が人身事故の影響で長らく線路上で停車し散々な目に遭ったことを思い出した。なんとか帰宅することはできたものの、実に“後味”が悪い旅になってしまった。もちろん旅そのものはそれなりに楽しめたのだが……。

 両サイドに飲食店が延々と立ち並ぶこの通りは、まるで昭和の雑踏を再現した映画のセットであるかのようだ。ある意味ではテーマパーク化しているともいえる。どの店に入ろうかと物色しているのカップルやグループが多く、自分のように一人でどこかに入ろうとしている者は少ないように思える。やはり一人飲みには向いてない場所なのだろうか。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 ……そんなことはない。今はネットがあるので、一人でも浮かなそうであり、かといって常連さんばかりではなさそうな店の見当をつけることができる。ここに来る前にそうした店の目星をいくつかつけていたのだ。

 候補にあげていたやきとんの店はガラス戸で店内の様子が丸わかりだ。中はグループ客がほとんどだったため、いったん見送ることにした。もしほかがダメそうならまた戻ってくればいいのだ。

 次に目星をつけていた店を見つける。ここも店内のテーブル席はグループ客で賑わっていたのだが、この店には立ち飲みカウンターがあることを事前に調査済みである。ためらうことなく入ってみた。

“ハッピーエンディング”を期待し過ぎると判断を見誤る

 フロアの7割ほどを占めるテーブル席はすでにほとんどがグループ客で埋まっていた。客層は全体的に若い。

 店員さんに1人であることを告げるとカウンターにしますかと聞かれ、肯くと調理場の前にあるカウンター席に通される。入った時点でカウンターには先客の姿はなく、左端のおそらくベストポジションと思われる場所に着かせてもらうことができた。左の壁の窓の上には液晶テレビが架かっていて、画面を眺めながら杯を傾けられそうだ。

 そしてこの立ち飲みカウンター席の特典として「せんべろセット」があるのだ。店員さんから説明を聞くとかなりお得である。何の迷いもなくせんべろセットを注文する。一人客にとってありがたいことこの上ない。

 さっそく生ビールでひと口飲み、続いてやってきた「味噌きゅうり」を頬張る。久しぶりの中野の街を歩きようやく一息つけた。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 これからもし旅行をするとすれば、最後の箱根旅行のようなエンディングは勘弁願いたいものだが、こうしたことは不可抗力であり対策のしようがない。そして“後味”がよろしくなかった旅であったにせよ、温泉や料理など旅そのものはしっかり楽しんだのであり、バッドエンドだからといって旅を過小評価する必要もないのだろう。

 逆に言えばエンディングを気にして旅をしてもあまり意味はないことになる。最新の研究でも“ハッピーエンディング”を期待し過ぎることで意思決定が誤りやすくなることが指摘されている。物事は「終わりよければすべてよし」ではないというのである。


 経験が時間の経過とともに展開するとき、人間は経験の後半部分に不釣り合いな重要性を割り当てる傾向があり、これは経験を繰り返す、または回避する際の選択のミスにつながる可能性があります。

 27人の男性ボランティアのfMRI記録のモデルベースの計算分析を使用して、人間の脳が2つの異なる報酬表現で結果が拡張されたシーケンスの価値をエンコードすることが示されています。

 全体的な経験値は扁桃体に正確にエンコードされていることがわかりますが、経験した結果のシーケンスが一時的に低下した場合、そのメリットは抑制的な前島活動によって過度に過小評価されます。

※「JNeurosci」より引用


 英・ケンブリッジ大学の研究チームが2020年11月に「JNeurosci」で発表した研究では、fMRI(磁気共鳴機能画像法)を使った実験で、時間の経過を伴う連続した体験が脳の報酬系にどのような影響を及ぼしているのか、その脳活動を詳しく分析している。

 経験を振り返って評価する能力は、後でその経験が繰り返す価値があるものかどうか、または避けるべきであるのかどうかを判断する際の重要な能力だ。自分にとっても有用な能力だが、他者にとってもその評価は参考になる。

 実験では参加者はコンピュータスクリーン上でさまざまな大きさのコインが次々に落ちてきてポットの中に貯まっていく2筋の“流れ”を見せられた。コインは大きいほうが価値が高いのだが、小さいコインでもひっきりなしに落ちてくれば相応の価値になる。そして参加者がこの光景を見ている時の脳活動が詳しくモニターされたのだが、2つのパターンの脳活動が起きていることが突き止められた。活発になる脳の領域が異なっていたのである。

 その2つの領域とは脳の扁桃体(amygdala)と、前島(anterior insula)である。扁桃体は落ちてきたコインの総合的価値を見極めている一方、前島は落ちてきたコインのサイズが小さくなることを極度に嫌っていたのだ。

 つまり前島の脳活動は“バッドエンド”を嫌っている時に活発になって扁桃体からの正しい情報を打ち負かす可能性があり、意思決定の判断ミスに繋がるのである。

 最後に大きなコインが落ちてきて“ハッピーエンディング”を迎えると“後味”が良くなり、ポットに貯まったコインの総額の多寡は度外視してしまう傾向があることになる。そしてこの前島の脳活動がミスジャッジを招くのだ。“ハッピー”であれ“バッド”であれ、エンディングが特に重要ということはなく、我々は全体を通じた正しい価値判断をしなくてはならないのである。

期待を裏切られる“バッドエンド”を迎えても冷静に

 一杯目の生ビールを飲み干したところで、やきとんがやってきた。ハツ、かしら、タンの3本だ。普通に頼むと1本100円だが、せんべろセットに含まれていて3本で200円相当というお得さだ。ハツを一口食べたが文句なく美味しい。二杯目も生ビールを注文する。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 カウンターに一人客がやって来た。当然といえば当然だがせんべろセットを注文している。常連さんというわけではなさそうだが、かといって自分のような一見さんでもない感じだ。

 やきとんといえばかつて何度か通った店が、ある時期から味が落ちて行かなくなった経験を個人的に持っている。味が落ちたと気づいた時の晩酌はすごく残念であった。どうやら調理スタッフが総入れ替えしたようだった。まさに“ハッピーエンド”を期待して行ったのに“バッドエンド”を迎えてしまったのだ。しかしもし仮にその時その店に初めて入ったということであれば、きっとそれほど残念には感じなかったのだろう。

 現在はもうその店には通ってはいないのだが、今回の研究に則して考えてみればもう少し冷静になったほうがよいのかもしれない。“バッドエンド”は前島の脳活動で著しい過小評価を招くことが指摘されているのであり、その居酒屋の総合的な評価は何もやきとんの味だけが左右するものではないからだ。別の好みのメニューが見つかったり、そのうちにやきとんの味が改善されてくる可能性もある。

「ピーマンポテトサラダ」という珍しいメニューを注文してみた。ある程度作り置きされているようですぐに出てくる。種を取って空洞になったピーマンの中にポテトサラダを詰めた一品だ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 取っ手がついたスタンドに差し込まれた状態で提供され、上からかぶりついで食べるとの説明を受ける。味は想像した通りだが面白い食体験だ。二杯目の生ビールも尽きたのでチューハイを注文する。

 行かなければならない明確な理由があるならともかく、ともあれ今のご時世的には旅行を無理に計画する必要もない。こうして街歩きをして気になった店に入ってみるだけでも小旅行気分は味わえるというものだ。このチューハイを飲み干すとせんべろセットは終了となる。お得過ぎる立ち飲み体験だ。メニューに気になった日本酒があったので、最後にそれをひっかけてみよう。決して“ハッピーエンド”は期待せずに……。

文/仲田しんじ

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