ソールにカーボンプレートを仕込むことで安定感と反発性を得るのが、最近のランニングシューズのトレンド。しかしこのアディダスの最新シューズ「アディゼロ アディオス プロ」はカーボンのプレートではなく、足の指に見立てた5本のカーボンロッドを採用。プレートから棒状のロッドになったことでどんな違いがあるのか? 合計30㎞ほど走ってテストを行った。
360°方向にしなる棒状のカーボン5本搭載
自社のシューズに「爆速!」というキャッチコピーをつけるあたり、アディダスの本気度がうかがえるこのシューズ。最大の特徴は、やはりソールに配置された5本のカーボンロッド「エナジーロッド」にある。棒状のカーボン素材を足の中足骨に沿うように配置したことで、板状のカーボン素材に比べて足が自由に動かせる。360°方向に動きやすくなったことで、自然な反発で走りをサポートするという。
しかも、ランニング中の足の動きに合わせて5本それぞれの太さ・形状を変更しているので、反発だけではなく衝撃を吸収することも可能になった。その結果身体へのダメージを軽減して、走行後のリカバリーにも良い影響を与えてくれそう。
ボリュームはあるがソールは軽量な仕上がり
このエナジーロッドを包んでいるのが、アディダス史上最も軽く反発する素材「ライトストライク プロ」。足あたりが優しいクッション性はもちろん、反発力をランナーにもたらしてくれるのでラクにペースを上げることができる。ソールの厚さはヒール部分で3.9㎜あるが重量は約225gと軽く、見た目のボリューム感とのギャップがすごい!
アウトソールはスリックタイヤのようななめらかな表面だが、ウエットなコンディションでもグリップする。滑らないので確実に前方向への力を逃がさない。極薄でもちろん軽量。
足を包み込むアッパーにも軽量で快適性を高める素材を採用している。ソックスが透けるほど薄いセラーメッシュを使用し通気性は十分。ここまで薄手の素材だと耐久性に不安があるが問題はない。
セラーメッシュの内側に格子状の素材を貼り付けることで、伸縮性がありながらホールド感のあるアッパーに仕上がっている。シューズの内のムレを素早く排出してくれるため、夏場は本当に快適。冬場はつま先に冷たい風を感じるほど通気性が高い。
やわらかくて自然に反発。いつの間にかペースが上がる
実際に履いてみると・・・シューズに足を入れて立ち上がった瞬間に「違う!」ことが分かる。これまで履いたことがないフワフワとした感じ。走り始めてみるとさらに違いを感じる。このあたりはソール素材「のライトストライクプロ」がしっかりと効いているのだろう。一般的なランニングシューズのソールは、立っているときにやわらかく感じても、走りだすと固さを感じることが多い。ある程度固くないと、衝撃を吸収し切って反発せずスピードに乗らないためだ。
しかしこのアディオス プロは着地の瞬間も蹴り出しの瞬間もソフトな足あたり。それでいてしっかりスピードにも乗っていくので、かなり不思議な走り心地。5本指に見立てたカーボンロッドが採用されているためだとは思うが、正直なところ、カーボンがプレートではなく、棒状になっていることは自分には体感できなかった。
ただ、どの角度で着地をしても、衝撃を吸収して反発に変えてくれる印象があり、これが360°にしなるカーボンロッドの実力なのかもしれないとは思う。しかもその反発はかなり自然で違和感がない。自分の実力が高くなったみたいで気持ちが良い!
いつもの10㎞のランニングコースをゆっくり走るつもりだったが、いつの間にかペースが上がって最終的には5分ほど速く走り終えた。そんなペースで走っても足にダメージが少なく、次の日にも疲労感があまり残っていないので、翌日も普通通りに走ることができた。脚への負担が少ないのはランニングを楽しむ層にもかなりありがたい。もちろん本気でタイムを目指すリアルランナーにも恩恵はある。チェコのプラハで開催されたハーフマラソンレースで、ペレス・ジェプチルチル選手(ケニア)が、女子の世界記録となる1時間5分34秒を叩き出すなど「爆速!」の看板に偽りはない。
2020年の6月発売された当初は「抽選」による限定的な販売だったが、テストしたカラーのほか、最近は画像の新色が登場するなど一般ランナーにも手に入りやすくなった。
価格的には気合を入れて走るレースシューズではあるが、機能的には普段のジョギングからレースまで対応できる万能なランニングシューズと言えるだろう。これまでのアディダスのランニングシューズの系譜とは違う、新しいカテゴリーに属するものなのだろう。予算的に問題がないなら、ずっと履いていたいと感じさせるシューズだった。
アディダス アディゼロ アディオス プロ
価格/2万7500円(税込)
https://shop.adidas.jp/running/adizero_adios_pro/
今 雄飛(こんゆうひ):ミラソル デポルテ代表。スポーツブランドのPR業務を行うかたわら、自転車、トライアスロン、アウトドア関連のライターとしても活動中。趣味はロングディスタンスのトライアスロン