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【リーダーはつらいよ】「焼酎だけでは人は呼べない。背景にある文化をウリにしたい」河内源一郎商店・山元紀子さん

2020.12.18

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今回の「リーダーはつらいよ」は、麹にまつわる物語である。麹は食品発酵に有効な微生物を繁殖させたもので、日本酒、味噌、漬物、焼酎、醤油等の製造に欠かせない、古くから日本の食になくてはならないものである。

株式会社河内源一郎商店グループ3社の代表を務める山元紀子さん(63)。河内源一郎商店は、国内に5社しかない麹の元、種麹を製造販売する会社で、国内の焼酎メーカーの約8割に種麹を供給する。戦前、大蔵省の技官だった河内源一郎が鹿児島に赴任し、焼酎製造の歩留まりの悪さを改善すべく河内黒麹菌、白麹菌を開発。昭和13年に鹿児島市内に種麹屋の店を起業したのが会社の起源だ。

ところが昭和の終わりの頃、経営方針をめぐり2代目と3代目の親子げんかが勃発。3代目の正博はクビ、河内源一郎商店から妻の紀子とともに追い出される。残ったのは2代目の父から半ば押し付けられた、倒産寸前の錦灘酒造のみ。錦灘酒造の再建を観光事業に託すが、専務をはじめ従業員は辞め、残ったのは夫婦と従業員一人の3人だけ。だが、頭を下げることと泣きを入れることが何より嫌いな正博は、紀子を専務に据え、捲土重来を期すのであった。

“鹿児島の焼酎の歴史を飲む”

銀行から億の資金を借り、鹿児島空港に隣接する土地を購入した。空港のそばに観光のための焼酎工場を作る計画は当初からあった。焼酎の認知度が進み、酎ブームが到来しつつあった。

「焼酎だけで人は呼べない。焼酎の背景には文化がある。“鹿児島の焼酎の歴史を飲む”これだ。うちは種麹屋の造り酒屋だから、特殊な焼酎を作り試飲してもらい、販売する」と、テーマは決まった。焼酎観光工場「GEN(現・バレルバレープラハ&GEN)」のオープンは1990年。お客を呼ぶには営業が欠かせない。紀子は幼い子供を親に預け、経費節減のために高速バスで、各地の旅行業者に営業に回った。

「日本で初めての見学できる焼酎工場で、カブト釜蒸留機という明治時代の蒸留器を再現しています。うちならではの焼酎を試飲し、購入することもできます」「元々、種麹屋ですから、お付き合いのある九州の焼酎メーカー126社の焼酎を取り揃え、販売しています」

「工場は空港から2分、時間調整にご利用ください」

そんなセールストークだったが、旅行代理店のスタッフの反応は冷たいものが多かった。「女が酒を造るのか?」

「こんなとこまで営業に来て、よくご主人が長期の出張を許してくれるね」

中には「お客一人当たり500円」とか、法外なマージンを要求してくる業者もいた。

“次はクラフトビールにチェコ村だ”

元々種麹屋だ。正博は東大農学部大学院の応用微生物研究室を修了し、実家の河内源一郎商店では麹の研究を重ねた。酒造りは熟知している。錦灘酒造の観光工場では、“鹿児島の焼酎の歴史を飲む”をコンセプトに、“神代の世代の焼酎”“戦国時代の焼酎”“江戸時代の島津家の焼酎”“明治時代の焼酎”等、少量多品種の焼酎造りを行った。折からの焼酎ブームを追い風に、徐々に観光バスが焼酎観光工場に止まるようになる。

例えば、鹿児島の隼人という地域にちなんで命名した、ナツメヤシを原料にした焼酎、『隼人の涙』。これをヤマモモのジュースで割ったカクテルを試飲したお客は、「美味い!」と声を上げ、飛ぶように売れた。

「次はクラフトビールだ!!」

リピーターを増やすにはどうしたらいいか。1994年酒税法の一部改正に伴い、地ビールが解禁されると、正博は地ビール導入に取り組む。麹から離れて、欧米のビール工場を視察して、チェコのビールに目を付けた。

日本ビールの主流となっているものは、チェコのピルゼン地方を発祥とするタイプのものだ。正博は通訳とともにチェコのビール工場に通い、ビールづくりを習得。銀行から数億円の借金をして、チェコビールの製造機械を購入し、観光工場に導入する。“霧島高原ビール”というクラフトビールの製造・販売をスタートさせたのは、90年代中頃だった。

「焼酎の時と同じ。チェコのビールを売るのではなく、チェコの文化を持ってこよう、チェコ村を作る!」

正博のそんなアイデアでビールをはじめ、ソーセージ等のチェコ料理。チェコの木工の玩具をショップで扱ったり、チェコのテーブルや椅子も輸入した。承認を得てチェコ政府観光局の看板も上げチェコ村を作り、観光工場の名称も「バレルバレープラハ&GEN」と変更した。

珍しい焼酎にクラフトビール、チェコ村、鹿児島の古武道の示現流の実演等もウケた。年間50万人ほどの来訪者が押し寄せた。

麹を使った飼料にサプリメント

「お前、社長をやれ」

紀子が正博からそう言われたのは、2001年だった。麹の研究に没頭したい夫の心情はわかっていた。頭を下げることができない正博は、旅行業者の不条理な要求に、「何言ってんだ!」とケンカも辞さない。

「面倒くさい交渉は私が表に出ます」と、紀子は夫に告げていた。社長に就いた紀子は通販に注目する。これまでお客が宅配で送ったリストをもとに、ダイレクトメールを送った。普及し始めたWeb広告も利用した。

犬猿の仲だった父で2代目が、8年ほど前に他界し、種麹を製造・販売する河内源一郎商店の経営を任されたことも、正博の麹の研究に拍車がかかったのだろう。少子高齢化で焼酎の需要の伸びは期待できない。麹を使って何をするか。食品リサイクル法が施行された。正博は麹を使って環境問題への取り組みを試みる。

鹿児島は畜産県だ。彼は養豚に注目した。麹を豚の飼料に生かせないか。紀子が社長になって、売上げは5倍近く伸びたが、飼料を開発する別会社を立ち上げ、研究費や設備費等に十数億円投資した。研究用の豚舎も作った。残飯等の餌に開発した飼料用に開発した河内菌黒麹を配合すると、豚のフンが臭くない。肉質が良い、良質な豚フン堆肥を使うと、作物の収穫量が増す。

さらに、河内麹菌が出す酵素とクエン酸は腸にいい働きをする。霧島市は茶どころだ。霧島市の茶葉に、麹を生やしたサプリメント“茶麹”は、Webでガンガン広告を仕掛けている。

――新型コロナ問題で今、観光業は大変です。

「今年3月~7月の来訪者はほぼゼロでした」そう言う紀子社長の表情に暗さはない。

――観光業者はどこも大変な赤字ですが、

「うちは焼酎と茶麹の通販と、農家への飼料の販売等で何とか現状維持。これまで研究・開発にはたくさんお金をかけてきましたから」

種麹を中心に据える会社にとって、コロナ禍は飼料やサプリメント等、麹を使った次なる製品へ、大きく舵を切るきっかけになるのかもしれない。

「麹の可能性は、まだはじまったばかりですよ」とは、河内源一郎商店3代目の山本正博(70)の笑顔を含んだ言葉である。 

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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