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チームの勝利より”顔が浮かぶ”個人の勝利のほうが評価が高くなる理由

2020.12.21

 選手はもちろんスポーツ関係者においても今年は散々な一年になってしまったが、それでもボクシングの世界戦などは無観客ではありながらも大いに注目を集めた。一方で野球やサッカーもなんとか再開したが、盛り上がりに欠けた感は否めない。その意味では今後は個人競技のほうが活況になるのかもしれないが……。

図書館を後にして「牛たんの店」に入る

 ちょっとした調べ物で訪れた豊島区立中央図書館を後にすると、もうとっぷり日が暮れていた。ちなみにこの図書館は平日は午後10時にまで開いているので、帰宅途中の寄り道にも適しているといえる。しかし便利なだけに利用者も多く、しかもこのご時世で入場制限もあるので注意が必要だ。

 図書館の建物を出て、首都高の下の道を護国寺方面へ向けて歩いていた。特に急ぐ用事もないので少し歩いてみよう。どこかで夕食にしてみてもよい。

 道の右側にはあの有名なラーメン店の本店がある。ラーメン好きなら誰もが知る店で、メディアでも有名な創業者は残念ながら2015年に亡くなっている。東京を代表するつけ麺店としての地位を築いた同店だが、その道のりは努力の賜物であったようだ。ラーメン業界での“偉大な創業者”の一人であることは間違いない。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 創業者のドキュメンタリー番組を見たことがあるが、創業から行列ができる人気店になった頃の店舗は東池袋の別の場所にあったという。個人的にはこの店しか知らないが確かに美味しい店だ。かつては池袋駅の地下構内に軒先に創業者の人形が展示されている店があったのだが今はもうなくなっている。現在は各地に店を構える同店だが、何はともあれ“創業者ありき”の店である。

 文句なしに美味しいつけ麺ではあるが、個人的に今はつけ麺やラーメンという気分ではなかった。かといってほかに食べたい気分になっているメニューもない。このまま少し歩くことにしよう。

 東京メトロの東池袋駅の出入口を過ぎ、さらに都電の東池袋四丁目駅に差しかかる。広い道をこのまま歩き続けるのも面白味がないようにも思え、この都電の線路沿いを歩いてみたい気分になった。線路に沿って歩いていけばそのうち春日通りに出るはずだ。ならばそれも一興である。

 線路沿いを歩いていると住宅街に一軒の店を認める。格子戸に暖簾がかかった店構えは一見すると蕎麦屋のようにも見えるが電光看板には「牛たんの店」と書かれてある。牛たんの専門店のようだ。ばったり出くわした意外な店ということになるが悪くはない。入ってみよう。

チームの成功よりも個人の成功を高評価する傾向

 店内はL字のカウンター席だけでこじんまりとしている。出入口近くの端の席に座らせてもらう。あまり装飾のないすっきりとした店内が清々しい。奥の席にはカップル客がいた。

 牛たんの専門店ということでメニューは少なくあまり迷うことはない。牛たん焼、麦めし、テールスープがセットになった定食に、少し気になった牛たんのつくねを注文する。帰宅してから少し作業があるので、アルコールはここではやめておこう。

 牛たんということであれば、ここからほど近いサンシャイン60の中やサンシャイン60通りに人気のチェーン店がある。それらの店もじゅうぶんに美味しい店だが、偶然とはいえ個人店の牛たん専門店に入るというのも貴重な体験だ。そして人情として個人店は何かと応援したくもなる。カウンター内の調理場では店主がさっそく牛たんを焼いている。

 定食がやってきた。まず最初にテールスープを一口すする。若干の獣臭さはあるのだが悪臭というわけではなくまったく問題はない。ほろほろになった軟骨部分の触感もなかなかだ。柔らかいのに噛み応えのある牛たんも格別である。噛むほどに美味しくなり飲み込むのがもったいなく感じてしまうほどだ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 チェーン店よりは個人店を応援したくなるのは、ある意味で自然なことのようにも思えてくるがどうなのだろうか。最新の研究では、我々はチームや組織の勝利よりも個人の勝利により“畏敬の念”を抱きやすいことが報告されている。我々は本来、チームプレーよりも個人競技の勝者のほうに感銘を受けやすいというのである。


「個人が成功の連続にあるとき、その個人は成功を手中にしているので勝者を特定するのははるかに簡単です。グループまたはチームでは、非常に多くの人々が関与し、非常に多くの変動要因があるため明確ではありません。グループの成功を説明する要因はいくつもある可能性があります」と(研究チームの)ウォーカーは語る。

「人々は個人の勝利を、当人の才能や努力に直接起因していると見なしていることがわかりました。これは体験の共有を楽しみながら継続したい“畏怖の念”を引き起こしました」

※「Ohio State University」より引用


 米・オハイオ州立大学の研究チームが2020年8月に「Journal of Personality and Social Psychology」で発表した研究の実験の1つでは、参加者はジャマイカの伝説的スプリンター、ウサイン・ボルトのオリンピックでの金メダルを評価したのだが、より多くの者がリレー種目よりも100mや200mといった個人競技でのボルトの金メダルに価値を置き、また期待していることが浮き彫りになった。

 また架空(架空とは知らせず)の6連勝中のチャンピオンの話を参加者に聞かせ、次の試合で7連勝をしてもらいたいかどうかを訊ねたのだが、そのチャンピオンが個人である設定のほうが、チームである設定よりも7連勝してほしいという期待が高くなっていたのだ。つまり6連勝中のボクシングチャンピオンのほうが、6連勝中の野球チームよりも7連勝への期待が高いのである。我々はチームの成功よりも個人の成功のほうを高評価する傾向があるというのだ。そしてその理由は個人の勝利が“わかりやすい”からである。

 牛たんのつくねのほうも賞味する。初めて食べるメニューだが普通に美味しい。しかし牛たんのほうが美味しいことも確かだ。どうやら勝手に期待し過ぎていたようだ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

“顔が浮かぶ”企業や組織により親しみを感じる

 コロナ禍の中でスポーツの世界は踏んだり蹴ったりの一年になってしまったが、それでもボクシングの世界戦や女子テニスの全米オープンなど、興奮と感動を呼ぶ試合は少ないながらもそれなりにあった。そしてそうした試合は個人競技である傾向が強かったことも今年の特徴といえるだろう。

 無観客試合や観客を大幅に制限しての試合の中で、団体スポーツよりも個人競技の醍醐味がより目立ったのだとも言えそうだが、今回の研究によればもともと我々はチームの勝利よりも偉大な個人の勝利の瞬間を目撃し、“畏怖の念(feeling of awe)”を抱くことを好んでいることになる。

 ひと口に団体競技といっても、たとえば昨今の野球はピッチャーやバッターとして個人成績の競い合いになっている側面もある。特に日本人メジャーリーガーの報道のされ方は個人成績が優先されていて、その意味では個人競技の要素が強いと言えるのかもしれない。そして当然、優れた成績を収めたメジャーリーガーには“畏敬の念”を抱きやすい。

 そして研究ではこの“畏怖の念”の対象は何もスポーツ選手に限った話ではないということだ。

 実験の1つで参加者は成功した企業のサクセスストーリーを聞かされたのだが、その話には2パターンあり、参加者の半数はその企業の偉大な創業者の話を聞かされ、もう半数はその企業の優秀な首脳陣の話を聞かされたのである。

 その後参加者はこの企業がどれくらい成功(業界でのマーケット占有率)したのかを想定したのだが、偉大な創業者のいる設定のほうがより成功するはずであると受け止められていたのである。

 たとえばアップルという企業を引き合いに出せば半ば自動的にスティーブ・ジョブスの顔が浮かんでくるが、IBMやサムソンと言われても多くにとってはCEOの顔は思い浮かばないだろう。人情からいってある意味では当然のことではあるが、我々は“顔が浮かぶ”企業や組織のほうにより親しみを感じるのである。先ほどのラーメン店の創業者もまさに“顔が浮かぶ”存在だ。

 そしてもちろん、今いるこの店の店主さんたちもまた常連客にとっては“顔が浮かぶ”店の人であることは間違いない。そしてそうした“顔が浮かぶ”店はチェーン店よりも圧倒的に個人店であることが多いのだろう。どうりで個人店を応援したくなるというものだ。

 牛たん定食はあっという間に食べ尽くしてしまった。テーブルに置いてあるシシトウの辛子味噌漬けも麦めしによく合って美味しかった。さて店を出て腹ごなしにもう少し歩いてから帰ることにしよう……。

文/仲田しんじ

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