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明治時代まで遡る!?かつて北海道で木彫り熊が流行した意外な理由

2020.12.15

野生動物の宝庫といわれる北海道で、もっとも出会いたくないのがヒグマだ。札幌市が公式HPで公開している「ヒグマの生態・行動習性」によると、体長は大人で1.5~2m、体重100~400㎏にもなるのに、走ると時速50㎞ものスピードにも達するという。人間がまともに張り合おうとしても、とてもじゃないが敵わない相手なのだ。

しかし、「北海道ならではの野生動物」としての注目度は高く、お土産品として熊に関連した商品は少なくない。「熊出没注意」のステッカーなどはよい例だが、同様に「木彫りの熊」の存在も侮れない。昭和を知る人たちなら一度は目にしたことがあるはず。

では、なぜ北海道=木彫り熊になったのか?

尾張徳川家が推奨した木彫り熊

答を知るべく訪ねたのは、北海道二海郡八雲町。ここは道南、渡島半島のほぼ中央部に位置し、地名の通り、日本で唯一、2つの海(太平洋と日本海)に面した町として知られている。実はここが北海道における木彫り熊発祥の地だったのだ。

ルーツを辿ると、1878(明治11)年まで遡る。尾張徳川家17代当主徳川慶勝(よしかつ)は、明治維新により職を失った元家臣たちをこの地に移住させ、開拓試験場を拓き、明治14年にはこの地を八雲村と名付けた。

以来、八雲と尾張徳川家の密接な関係は続き、1923(大正12)年には19代当主の徳川義親(よしちか)が、ヨーロッパ視察から持ち帰ったスイスの木彫り熊を八雲に持込んだ。そして農閑期の生活の足しになればと、同様の木彫り熊を作ることを推奨。これが北海道における最初の木彫り熊といわれ、その人気は次第に高まっていった。

日本で唯一の木彫り熊資料館

木彫り熊発祥の地だけあり、八雲町には日本で唯一、公立の木彫り熊資料館がある。

郷土資料館と同じ建物内にあり、玄関を入るといきなり右手に巨大な木彫り熊。立ち上がり、こちらを威嚇している。顔もかなり恐い!

左手には1979(昭和54)年に町営牧場で捕獲された、体重250㎏のヒグマの剥製が「雲八」と名付けられて展示されている。なんでも牛を襲って食べていたとか。その後ろには、町内で見られるほかの野生動物のはく製も展示されている。

木彫り熊資料館のある2階に階段で上がると、木彫り熊資料館のプレートが貼られたドア。

ドアを開けると、またまた正面でこちらを威嚇するかのように睨む巨大な木彫り熊と目が合った。これもすごい迫力だ。

鮭は咥えず、擬人化されたものが多い

さて、ここからは同館の学芸員、大谷(おおや)茂之さんの解説を聞きながら見学しよう。まずは八雲の木彫り熊の特長を伺うと

・毛を彫った熊と、面で構成された熊の2つの彫り方がある。
・形の特徴として、鮭を咥えた形はとても少なく、人間らしい姿をした=擬人化した熊が多い。
・毛を彫った熊は、足の横でハの字状に毛分けがされ、両肩の間の盛り上がったところから毛が放射線状に流れている。
・面で構成された熊は、斧やくさびで割った面を重視した柴崎彫り(ハツリ彫り)や、斧や小刀でカットした面で構成するカット彫りなど種類が豊富。
・毛でも面でも、いろいろな姿の熊が作られているが、昭和3年の時点で30種類ほどの多種多様な姿があった。

最初は模倣、後に独自の芸術へ

次に、収蔵品の中からとくに注目すべき作品を見てみよう。

まずは徳川義親がスイスから持ち帰ったという木彫り熊(下写真右)と、それを参考に八雲で最初に彫られた木彫り熊(左)。手のひらに乗るサイズで、想像しているよりずっと小さい。彫り方の線もかなり違うことが見て取れる。

細かいところだが、スイスの熊の目はガラスを使っているのに対し、八雲では釘で代用しているとのこと。

擬人化された熊という意味で注目すべきは、こちらの堆積牧草だろう。積み上げられた牧草の上に熊がいて、せっせと働いているのが面白い。牧畜業の盛んな八雲町らしい作品だ。

日本画家、十倉金之が生み出したのは、繊細な描写の毛彫りという技法。館内には氏の描いたウサギの絵も展示されているのだが、細かな毛の描写をそのまま彫りに生かした木彫り熊は、圧倒的なまでの存在感があった。

一見すると木の根っこだが……

長万部の某病院裏玄関で40年間風雪にさらされていたものが、巡り巡ってこちらの資料館にやってきたという作品は、柴崎重行(号 志化雪・志)と根本勲(号 俺・土龍)の合作による這い熊の木彫り熊。

遠目には根っこのようだが、実はしっかり熊が彫られていて、よーく見ると左手を前に出し、頭をぐいっと下げていることがわかる。

ユニークなものとしては、胡坐をかいて腕を組んで座っている座熊(加藤貞夫作)がある。面で彫られたものだが、やわらかさやほっこり感のある作品だ。こちらは寄贈者が新宅祝いでもらったものとか。木彫り熊はこのようにお祝いの品として活躍していたわけだ。

時代ごとの流行もあった

木彫り熊が彫られ始めた頃の姿は、這い熊と呼ばれる形が多く作られていたが、戦前(昭和初期)は鮭背負い熊や、スキー熊といったほっこりしたものが売れていた。

戦後になると、八雲以外の、他の地域の木彫り熊がたくさん売れ始めた。その時に人気になったのが鮭くわえ熊と呼ばれるもので、多くの人の記憶に残っているようだ。

現代では、色を塗ったものよりも木肌を生かしたもの、シンプルなもの、かわいらしいものが人気。ユニークなものとして、上海万博に出品した木登り熊も見逃せない。

ちなみに八雲の木彫り熊は、戦前に北海道を代表するお土産品として雑誌にも紹介されていた。そして戦後、柴崎重行が手斧で割った面を主とする柴崎彫り(ハツリ彫り)が登場。氏の作品は木彫り熊をお土産品ではなく芸術品の域まで高め、なかなか手に入れることのできず幻の熊と呼ばれている。

(動画でも学べる八雲町木彫り熊の世界)
学芸員の大谷さんによる動画、「八雲木彫り熊チャンネル」もあるので、ぜひご覧あれ!
https://www.youtube.com/channel/UCCiKo4ysCR_GtgdIVLBt0Ag/

取材協力/八雲町木彫り熊資料館
https://www.town.yakumo.lg.jp/soshiki/kyoudo/
https://www.town.yakumo.lg.jp/blog/museum/

撮影協力/八雲産業株式会社

取材・文/西内義雄
医療・保健ジャーナリスト。専門は病気の予防などの保健分野。東京大学医療政策人材養成講座/東京大学公共政策大学院医療政策・教育ユニット、医療政策実践コミュニティ修了生。高知県観光特使。飛行機マニアでもある。JGC&SFC会員。

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