
コロナ禍で増えたクラウドファンディング
2020年はコロナ禍のせいで、さまざまな分野における社会・経済活動が停滞した年であった。
ところが、クラウドファンディングで支援を募る形式の製品・サービスの数は急増。緊急事態宣言が発令された春が、ここ数年のピークを記録するほどであったという。理由としては、マスクなど感染拡大リスク回避にかかわる製品や、リモートワークに役立つガジェット類が多々登場したことなどが挙げられる。
もう1つ注目したいのは、個人のプロジェクト実行者が増えたことだ。これについては、コロナ禍の影響下で、本業で働き続けることに危機感を抱いた人、リモートワークの定着で副業の可能性に目覚めた人が増え、新たな取り組みの架け橋としてクラウドファンディングを活用したものと推測される。
ただ、クラウドファンディングに参加するためのノウハウ・スキルの不足からか、目標額に届かないままに終わるプロジェクトも少なくないのが惜しまれる。
成否を分けるポイントはどこにあるのだろうか? 今回はそれを探るべく、個人としてクラウドファンディングに初挑戦し、初日で目標額超えの成功を収めた梶本沙世子さんにうかがった。
大人も癒される絵本を目指す
梶本さんは、東京生まれで現在は三重県在住の一児の母。ふだんは癒しをテーマに活動している。「チベット体操」という、ヨガに似たエクササイズの伝導師(講師)もしているが、コロナ禍で東京や名古屋への出張レッスンが一時まったくできなくなったという。
そんな折、畑違いと思える絵本を制作して、世に出したいという願望が芽生える。
「もともと、絵本をいつか出せたらいいな。と思っていました。ですが、今のご時世とても難しいことも分かっていました。そんな中、コロナ渦で人も社会も元気がなくなっていって、私になにか出来ないだろうかと思っていた時に、突然頭の中にこのキャラクターと物語が現れたのです」
「この絵本は『ANOTHEREARTH~もう一つの地球の物語』という、もう一つの地球に住む個性溢れる宇宙人たちのお話。見るだけで癒され、大人にも子供にも楽しんでもらえたらという思いで作った癒しの絵本です。大人が元気になれば、社会も元気になる。子供が笑えば未来が希望に変わる。この絵本を通して、皆が笑顔になってくれたら嬉しいです」
審査で問われるプロジェクトの中身
絵本を描きたいからといって、それをどこかの出版社に持ち込んで即出版となるわけではないことは、業界外の梶本さんもよく認識していた。
そこで、知人のすすめもあって、クラウドファンディングの世界に関心が向く。
老舗で大手のMakuake(株式会社マクアケが運営)に的を絞り、応募したのが10月のことだった。
Makuakeは、自らを「アタラシイものや体験の応援購入サービス」とし、今はクラウドファンディングという言葉は使用していない。ただ、商品・サービスの案件を「プロジェクト」と言い、「サポーター」からの予約注文が目標額に達すれば、プロジェクトが具現化する(All-or-Nothing方式の場合)といった点では、他社のクラウドファンディングサービスとほぼ変わらない。
さて、梶本さんによれば、応募したあとは複数回にわたる審査があったというが、はじめての体験ということもあり、少々大変だったようだ。
「マクアケの担当者からは、プロジェクトの中身からリターンの種類まで、具体的な内容が細かく問われました。フィードバックとアドバイスをいただきつつ、二人三脚的に精度を高めていきます。「応援したい」という気持ちが購入に繋がっていくため、プロジェクトページを見た人にそのプロジェクトに込められた想いがしっかり伝わるように、細かい表現にもこだわってページを作っていくことが重要です。例えば、“癒し”という言葉が、あいまいでわかりにくいという指摘があり、ちょっと悩みました。ただ、プロジェクトの説明文の量が多い少ないという指摘は、ありませんでした。もともと、書きたいことがそれなりにあったので、ボリューム的に多いかなと思ったのですが、それでちょうど良かったのでしょう。挿入写真も、サポーターの方々にアピールできるよう留意して撮りました。写真や画像の枚数は、あったほうがいいです」
また、本人証明書類の提出など事務的な作業が意外とあり、この種のことが苦手な梶本さんは苦労したという。
「そうしたことによる手戻りなども加味して、締め切りまでの期間に余裕を持たせたほうが絶対ラクです。自分の場合、締め切り直前まで引っ張ってしまったのが反省点です」と、梶本さんは語る。
審査のプロセスの詳細がどのようなものかについては、マクアケ社は公開していないが、同社によると、魅力的なプロジェクトを目指して、キュレーターと呼ぶ専任の担当者が各実行者につき、実施までのサポートを行う。また、設計されたプロジェクトの内容に法務の観点から問題ないかを、法律のプロが細かくチェック。プロジェクト実行者が安心してプロジェクトを公開できるためのサポートを行っているという。
購入意欲を喚起する写真・画像を何枚も入れるのが成功の秘訣の1つ
自身のSNSでのPRが重要
無事に審査をすべて通過し、Makuakeのサイトに掲載されたのが、11月30日のこと。初めての挑戦で、著名人ではないにもかかわらず、初日で目標額を達成したという。何か秘策でもあったのだろうか?
「プロジェクトが始まる20日くらい前から、自分のFacebookやInstagramなどで、Makuakeでプロジェクトが始まるよと情報発信しました。それこそ、ほとんど毎日ですね。もちろん、同じ内容を毎日投稿すると、単にしつこいと思われるので、裏話を書くなど工夫して、知り合いやフォロワーの方々に読んでいただけるようにしました」
前宣伝の甲斐あって、プロジェクト・ローンチ当日にリターンを予約注文したサポーターの多くが、梶本さんのSNSで情報を事前に知っていた人であったという。世間では無名に近くても、SNSを通じて知人のネットワークを築けている人は、それだけで大きなアドバンテージを持っているとみてよさそうだ。
「マクアケの担当者も、初日でどれだけ目標額に近づけるかが勝負とおっしゃっていました。プロジェクト期間を通じて、少しずつサポーターを増やすのではなく、最初の段階で目標額は達成しようとする意気込みが大事。その後は、早期に目標額を達成したという事実自体が、見知らぬ人たちからの応援に結び付くのではないかと思います」と、梶本さん。
SNSで事前PRすることが大事(梶本さんのInstagramより)
「シェアの時代」に合ったやり方
当初は漠然と「出版社から絵本を出版して、書店で販売できれば…」と考えていた梶本さんだったが、クラウドファンディングという形でリリースする方向に舵を切った。未知の世界にチャレンジしてみて、プロジェクトがまだ進行中の今、クラウドファンディングというやり方にどんな印象を抱いているだろうか?
「今回、クラウドファンディングに挑戦して感謝の想いが溢れてきて、何度も泣いてしまいました。自分はこんなにも沢山の温かな人たちに出逢っていたのだなと改めて感じたのです。まさか、こんなにも応援してもらえるとは思っていなかったので本当に驚きました」
「クラウドファンディングは令和という時代に合ったスタイルなのかもしれませんね。令和はシェアの時代。クラウドファンディングはみんなで結果を生み出すという感覚になれるから。元々は、私の夢だったのがプロジェクトを進行していくうちに皆の力で叶えるという風に変化してゆく。不思議な感覚です。まるで、一つのチームのようになるのですから。とても楽しいです! 最後までワンチームで楽しんでゆきたいと思います!」
「そして、日本中をこの絵本で癒してゆきたいです。クラウドファンディングやってみようか悩まれているかた、是非チャレンジされてみてください! 最後に、サポーターの皆さま本当にほんとうにありがとうございます。心より感謝を申し上げます」
梶本さんは締めくくりに、クラウドファンディングは「楽しい」ものだと語った。当然、しっかり準備をすることが条件だが、開始後は「ワクワク楽しい日々」が待っているとも。何か製品・サービスの構想を持っていれば、肩肘はらずに運営社に相談してみてはいかがだろうか。
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)
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