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【リーダーはつらいよ】「おいしいと言ってくれる人がいることが喜びです」吉村しいたけ農園・吉村孝幸さん

2020.12.10

前編はこちら

「リーダーはつらいよ」今回は神奈川県相模原市でしいたけ農園を営む主の物語だ。主は妻と二人で栽培と収穫、販売を手掛けている。この農園は、2011年の東日本大震災で被害を受け、着工中のリニア新幹線の工事で甚大な影響を受けている。

吉村しいたけ農園の主、吉村孝幸さん(67)。京王線、JR横浜線橋本駅から車で約30分、相模原市の大島地区のしいたけ農園のビニールハウスは、新興住宅街と隣接している。市場に出回るしいたけの90%以上は、おがくずを使って作られる菌床栽培だが、吉村さんは風味や味が格段に異なる原木栽培にこだわる。施設でのしいたけの原木栽培に井戸水は欠かせない。農園の命である井戸の真下をリニア新幹線のトンネルが通る計画だ。井戸水が涸れれば甚大な影響を被る。さらに2014年2月の記録的な大雪で、ビニールハウスが倒壊。しいたけ農園は重大な危機に直面した。

井戸水はしいたけ原木栽培の命

まずは吉村しいたけ農園がこだわる原木で栽培されたしいたけの味に触れる。アルミホイールに包みオーブントースターで4,5分。しいたけの傘がほんのり汗をかいたところを取り出し、塩を一振りして食す。口の中に広がる香りはまつたけに負けず劣らず。その歯ごたえは、山で採れた刺身といった感じだ。

スライスしてバターで炒めると、香りが包み込まれ、あっさりとした“山のフォアグラ”という表現がしたくなる。「3日ほどで食べてください、香りがあります」農園主のアドバイスである。

リニア新幹線のトンネル問題、大雪によるハウスの倒壊。しいたけ農園は2011年の東日本大震災の福島原発の事故でも、被害を受けた。福島産の原木の仕入れが途絶え、ピーク時は年間15トンあった出荷量が、目に見えて減少した。今の出荷は年間3トンほどだ。

14年に大雪でハウスが倒壊する以前に、リニア新幹線のトンネルが、しいたけ農園の井戸の真下を貫くと決まっていた。井戸水は施設での原木栽培の“命”である。原木に菌をまわして、しいたけが出る状態にするにも、しいたけを出すために刺激を与える時も、井戸水がなくてはならない。地域で開かれたリニア新幹線の説明会では、こんな話し合いがあった。

新しい井戸へのやり取り

「うちは井戸水が涸れたら仕事にならない。どんな保証をしてくれるのか」

「金銭補償です」そう答えたのは、説明に当たった市の担当者だ。

「お金をもらって、自分で井戸を掘っても水が出なかった時、“あんたの掘方が悪かったんだ”といわれても困る。新しい井戸は、JRで掘ってもらいたい」

ちなみに、リニア新幹線の事業主はJR東海である。吉村の訴えに後日、JR東海の担当者が挨拶に来て、「JR側で掘ります」と言質を得た。

「井戸は故障する。メンテナンスの問題もあるから、知っている業者に掘ってもらいたい」

「業者の選定は吉村さんにお任せします」書類こそ取り交わしていないが、そんなやり取りがこれまでにあった。

トンネル工事の間、しいたけ栽培を中断するわけにはいかない。トンネル工事の前に井戸を掘らなければならない。新しく掘った井戸が、トンネル工事の影響で涸れることがあったらという問いには、過程の話はできないというJR東海の対応だ。既存の井戸の深さは65mだが、新しい井戸の深さは90mと業者に告げられている。25m深くなった分、ポンプで水をくみ上げるのに電気代がかかる。その費用はどうするのか等、問題は山積みだ。

そんな中で14年の大雪でのハウスの倒壊に、吉村の心も折れかかった。水が使えなくなるのならこの仕事をやめる、もうハウスは再建しない。

「井戸はどうなるんですか」彼はJR東海の担当者に問い直した。

「(トンネル)工事が始まるのはまだ先ですし、どうぞ井戸を掘ってください」JR東海側からはそんな返答であった。

夢の超特急、いいことばかりでは……

しいたけ農園の主、吉村孝幸は翻弄された続けたリニア新幹線に、あまりいい思いを抱いていない。品川―名古屋間を40分で走る夢の超特急という反面、全線の86%がトンネルを走行するリニアには、様々な問題点が指摘されている。トンネル工事の影響による河川の涸渇の問題。静岡県ではそれが理由で未だ認可が下りていない。トンネルを掘った後の残土の捨て場の問題。リニアの車両が発生させる強力な磁界の人体への影響。南アルプスの下に掘られる延長25㎞のトンネルの環境への負荷等々。

品川を発車したリニアはトンネルの中を走行し、しいたけ農園から100mほど先を流れる相模川沿いの河岸段丘のところで、はじめて地上に姿を現す。

「説明会では、騒音は75デシベルで掃除機ぐらいということでしたが、掃除機にもいろいろとあるからね。高速でトンネルから出てくるわけだから衝撃波もあるだろうし…」

近隣には車輛基地も建設される。基地に向かう車輛で、深夜まで騒音は続くことだろう。

――原発事故の影響で生産量は減り、リニアで負担を強いられて。吉村さん、大雪でビニールハウスが壊れた時、なぜしいたけ農園を止めなかったのですか。

「うちのしいたけをいつも買ってくれる常連さんから、“やってくれ”って、声が多かったしね。うちを取り上げてくれた地元の新聞やテレビの人も、“応援しています、頑張って再建ください”と言ってくれるし」

――吉村しいたけ農園には、ファンが多い。

「うちのしいたけをおいしいと言ってくれる人がいる。手をかけて原木からしいたけが出てくるのが、喜びなんだね。お金のことはあまり考えずに、できる限り続けるよ」

頑張ってほしい。

吉村しいたけ農園
住所:相模原市大島526 直売日は水、土曜日の13時半~16時
収穫には限度があるため、直売所でお願いします。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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