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ヤマハがクラウドファンディングで「防災ライダーFIST-AID」プロジェクトを始めた理由

2020.12.03

自動二輪ライダーの「社会的意義」とは何だろうか。

日本は二輪製造産業が発展している。一方でライダーに対するイメージが良いとは限らない。

しかし、自由に走りまわる二輪車が「人々の希望」になる瞬間があるはずだ。

日本は地震頻発国だ。いや、地震だけではない。この列島はもともと降水量の多い地域で、南から台風もやって来る。日本に住まう者は、常に自然災害の脅威を目の当たりにしている。

その時、ライダーは何ができるのだろうか?

ライダーを取り巻く状況

今年9月1日、クラウドファンディング『Makuake』でこのようなプロジェクトが始まった。

ヤマハ発動機が企画する『防災ライダーFIST-AID』である。

このプロジェクトを一言で言い表すのは、非常に難しい。今日にでも発生するかもしれない自然災害に対して、日本全国のライダーの熱意と自意識を結集させる取り組み……と表現すればいいか。二輪車の機動性は、四輪車のそれを遥かに上回る。破壊された道路の脇を進むことも可能だ。それは絶望の淵に追い込まれた被災者からすれば、夜空を走る一筋の流れ星にも似た姿である。

が、そんなライダーに向けられている目は決して好意的なものばかりではない。かつては「バイクに乗っている高校生は不良」という印象で語られたり、今もそのようなステレオタイプから脱却できない人もいる。

その一方で、80年代にはどこにでもいた近所の先輩ライダーたちは、2020年代ではほぼ壊滅的な状態になっている。これについては後述するが、現代のライダーを取り巻く状況は極めて厳しいと言わざるを得ない。

バイクが「疎遠な乗り物」に

「Makuakeでのプロジェクト公開は、9月1日の防災の日に始まりました。新型コロナウイルスが蔓延する今、一般の人々に防災のことを再認識していただきたいという思いもあってこの日を選びました」

そう語るのは、ヤマハ発動機クリエイティブ本部ブランドマーケティング部の小川岳大氏。

筆者は静岡県磐田市のヤマハ発動機コミュニケーションプラザに足を運び、担当者へ直接話を聞いた。静岡県民で良かったと、心底感じている。

防災ライダーFIST-AIDのクラウドファンディングは、All or Nothing型。目標金額に1円でも届かなければプロジェクト自体が成立しないというものだ。が、この記事を執筆している2020年11月16日の時点で、目標金額の122%の資金をすでに集めた。共感する人々が大勢いたということだろう。

「日本国内のバイクの出荷台数は、80年代に比べると10分の1近くに落ち込んでいます」

これはMakuakeで公開しているページにも書かれていることだが、小川氏の口から改めてそれを聞くと、筆者は不安を抑え切れなくなる。

80年代はバイク全盛期と呼ぶべき時代だった。各メーカーが様々な工夫を凝らした新モデルを次々に市場へ投入し、若者は競うように購入した。

「あの頃は、それこそ毎月のように、オートバイ専門誌で新機種が誌面を飾っていました」

そう付け加えるのは、ヤマハ発動機クリエイティブ本部プランニングデザイン部長の西村慎一郎氏。

筆者は1984年生まれだが、小学館の週刊少年サンデーでは当時、新谷かおる氏の『ふたり鷹』が連載され、人気を集めていた。これはバイクのロードレースを題材にした作品で、主人公の沢渡鷹は耐久レースのレーサーとして活躍する。

メカやサーキットの細かい知識まで書き込まれた快作だが、このような作品は現代の少年誌では現れないだろう。『ふたり鷹』の時代とは違い、現代はバイクという乗り物そのものが、ティーンエイジャーにとって疎遠になっているからだ。

バイク店がなくなった現代

『ふたり鷹』の沢渡鷹は、大学に進学するまで地元の二輪販売店『バリバリ』というところに入り浸っていた。

当時のライダーおよびライダー志願者は、どの町にも必ず1店舗はある個人経営のバイク屋でいろいろなスキルを身に着けた。基本的な走行技術、細かいクラッチ操作、ツーリングの作法、そして非常時の対処法。

「ああいう店には、必ずうるさい先輩がいたものですよ」

西村氏がそう語るように、バイク屋に行けば店主か先輩ライダーがあれこれ世話を焼いてくれた。お節介なほど細かく、口うるさく。

今はどうか。個人経営のバイク屋は時代が進むにつれてすっかり数を減らし、同時に経験豊富な先輩たちに教えを受ける場も次々に消滅していった。それは、ライダーを志すティーンエイジャーの教育係がいなくなるという意味だ。

最近ではネットオークションで中古車が売られている。それを免許取り立ての高校生が「実店舗販売のものよりも安い」という理由で落札する。しかし、彼はそのバイクを自分の目で確認したわけではない。フレームは歪んでないか? 左右のフロントフォークの調整にズレはないか? エンジンは焼き付いてないか? ステアリングは正常か? それらを見分しないまま、画像と値段だけを見て購入を決めてしまう。

そのようなバイクにまたがって、初めてのツーリング。仲間を集める際はTwitterやInstagramなどのSNSを使う。「今度の日曜日にツーリングに行ける人募集!」と。自分でツーリングのペース配分ができる熟練ライダーがそれをやる分にはいいかもしれないが、初心者がオンラインでそう呼びかけるのは危険ではないか? その呼びかけに集まる者は、必ずしも確かな技量を持っているわけではない。直接的な面識がない以上、そういう現象も覚悟しなければならない。

未熟なライダーであればあるほどいいところを見せようと、初心者の前を速く走り置いてけぼりにする。一方、確かなライディングスキルを持った先輩たちは、初心者の後ろをつかず離れずの距離から見守りながら、「無理するな!」と声をかけたものだ。もし事故が起こったら、そして災害が発生したらどうすればいいかという知識も、それを伝授してくれる先輩が近くにいない。此度のヤマハ発動機のプロジェクトは、そのような時代を迎えてしまった今を考慮しながら読み解いていく必要がある。

車載工具は日本製

西村氏は、さらにこう説明する。

「Makuakeで公開しているプロジェクトのリターンに『I’ll be back kit』という車載工具セットがあります。工具の販売で知られるファクトリーギアと共同開発した製品です。車載工具というものはどうしてもコストカットの対象になるもので、これ自体もやろうと思えば安価なものを作れるのですが……。「I’ll be back kit」は何があっても帰ってくることを目指し、機能を拡充させながらも車載できるコンパクトなサイズにこだわりました」

2万2000円の出資で提供される『I’ll be back kit』は、バイクの応急修理に対応できる車載工具。特にオフロードバイクには欠かせないものだが、一方で目立たないものでもある。販売価格のことを考えた時、車載工具の有無が議論になりやすいという。

「バイクが転倒した時、クラッチレバーが折れてしまうこともあります。その際はプライヤーを解体して、応急的なクラッチレバーにすることも可能です」

この工夫には筆者も驚いた。なるほど、そんな使い方もあったのか!

「『I’ll be back kit』の一部に採用した、ヤマハ純正車載工具の生産工場は三条。クロムフィニッシュは海外ハイブランド工具の工場で施したハイブリッドです」

西村氏のこの言葉に、筆者はつい声を上げてしまった。随分と間抜けな声だったに違いない。まさかここで、三条の製品に巡り合えるとは思ってもいなかったからだ。

新潟県三条市といえば、世界的にも有名な「鍛造工業の町」である。江戸時代、頻発する火災は同時に巨大な建材需要を生み出していた。17世紀から江戸の木造家屋に使用する釘やカスガイ、工具を製造し供給していたのは燕三条の鍛造職人たちだ。その技術は今も受け継がれ、燕三条は日本を代表する「工具生産地域」として名を馳せている。

鍛造刃物の製造も盛んで、ナイフ収集家でもある筆者は越後三条打刃物の伝統工芸士の作品も所有している。大工道具や農耕具の製造で発展した技術だから、どの製品も過酷な条件下の使用を前提にした構造である。これがあるのとないのとでは、ツーリングに出かけた時の安心感に大きな差が出るはずだ。

「先輩ライダー」の意義

大規模災害発生時にまずやるべきことは、「自らの命を守る」行為であろう。まずは自分自身を守り、そこから他者への協力に移行する。

しかし前述の通り、今では非常時の行動原則を若いライダーに教授できる先輩がいない。だからこそ、今回のヤマハ発動機のプロジェクトは結果として大きな社会的意義を帯びることになるのだ。

Makuakeで公開中の出資枠に、防災ライダーブックレットがリターンとして届く内容のものがある。このブックレットは2冊用意されるが、出資者に配送されるのは1冊のみ。もう1冊は教習所などへ寄贈されるとのこと。これから二輪免許を取る若者が、教習所の中でブックレットを手に取って災害に備えた知識を学べるという仕組みだ。

とある若者が先輩からあらゆることを受け継ぎ、十数年後にかつての若者が口やかましい先輩になって様々な知識を教える。その流れを絶やしてはいけない。ライダーは孤独な生き物ではないのだから。

※クラウドファンディングには立案会社の問題でプロジェクトが頓挫する可能性や支援金が戻らなくなるリスクも稀にあります。
出資に当たっては、読者様ご自身でご判断いただきますようお願い致します。(編集部)

【参考】
【ヤマハ発動機】防災ライダーFIST-AID;大切なものは自分の手で守る-Makuake
FIST-AID-ヤマハ発動機

取材・文/澤田真一

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