
”第2のドバイ”という言葉を耳にしたことはあるだろうか。
この20年で飛躍的成長を遂げ、今や世界でもトップクラスの都市に成長したアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイ。
最近では、UAEの首都であるアブダビと共に、サウジアラビアとイランをそれぞれの軸とする中東での対立の構図の中、”緩衝地帯”として政治的にも重要なポジションとなりつつある。
中東で注目を集めるバーレーン
ただ、経済面であれ政治面であれ、ハブとしてのドバイはあまりに大きくなり過ぎた。
そこで出てくるのが、
”第2のドバイはどこか?”
という話である。中東では、1か国、バーレーンが注目されている。
元々は中東でも屈指の原油産出国であった一方、この50年は原油の枯渇傾向に悩まされており、他方、地理的にも”メジャープレイヤー”であるサウジアラビアとイランの中間に位置することから新たなハブ機能として内外の注目を集めている。
実際、バーレーンの首都マナマでは新たなショッピングモール建設などの都市開発案も多く存在し、筆者もドバイなどで現地富裕層と会っていると、バーレーンへの投資話はいろいろ聞かされる。
ただ、筆者が注目しているのはバーレーンではない、コーカサス地方の国、カスピ海に面したアゼルバイジャン共和国である。
”脱資源”でロシアへのハブを目指す
昨今、ナゴルノ・カラバフ地区でのアルメニア軍との軍事衝突がニュースを賑わせてはいるが(※この件については、筆者のYouTubeチャンネルで解説しているのでご覧ください)、この国の経済面では、いま、大きな地殻変動が起きている。
シンプルに言えば、”脱資源”がテーマである。
カスピ海に面したバクー油田を筆頭に原油・天然ガス資源に恵まれ、完全なるエネルギー輸出国であるアゼルバイジャン。
ところが、ここに来て世界的な資源相場が急落、これに同国の金融政策の変更も重なり、いまではインフレ率は10%を超える、世界でもワースト10に入るレベルのインフレが発生している。
困ったアゼルバイジャン、ここで動いているのが本題である”第2のドバイ”構想だ。
首都バクーをハブとすべく、様々な試みが進んでいる。
面白いところでは、2017年からはF1グランプリも首都バクーの市街地を利用して開催されている。
(※2020年はコロナ問題により中止)
ただ、アゼルバイジャンは内陸国。どうして”ハブ”となれるのか?
ポイントはアゼルバイジャンが北に面するロシアだ。
アゼルバイジャンはいわゆる”旧ソ連”の国家、現在でもCIS(独立国家共同体)に加盟している。
これにより、大半の商品はロシアへ関税フリーで流通できるのである、これが最大の売りだ。
欧米のNATO加盟国とロシアの対立は深まるばかり。
そんな中、アゼルバイジャン経由でのロシアへの貿易が増えているのである。そして、アゼルバイジャンもここに大きなチャンスを見出している。
世界へ輸出できるクオリティのモノ作り
実際、同国のアゼルバイジャン航空や貨物を担うシルクウェイウエスト航空は(コロナ前だが・・・)着実に運航ネットワークを広げ、日本にも関西空港や小松空港に就航していた。
”第2のドバイ”というべきハブ構想は物流だけではない。
2017年のJETROデータによると労働人口の4割が従事しているという農業、ここにも補助金も活用して国策としての活性化が図られている。
”ロシアを中心に世界へ輸出できるクオリティのモノ作り”だ。
筆者は数年前、同国政府系機関の紹介で、首都バクーから片道2時間ほどの山間部を訪れた。
訪れてビックリ。
そこに現れたのはオランダの最先端技術を駆使したバラ農園である。
花バイヤーでもある筆者はどうしても日本への輸入・買い付けを考えてしまうが、この農園がターゲットとしているのは1か国、ロシアだけである。
首都バクーからロシア・モスクワまでは空路で2-3時間の距離。
かつ、上述したCIS加盟国の関税協定によりアフリカや南米のバラと比べると鮮度とコストの両面でかなりのメリットが出る。ここに商機を見出しているのである。
”脱資源”を図るべく、着実に前進するアゼルバイジャン。
彼らの動きが吉と出るか凶と出るかはまだ分からない。
しかし、ロシアマーケット・CIS加盟国をターゲットに据えると、アゼルバイジャンは日本企業にとっても大きなオプションとなることは間違いない。
今後も要注目である。
文/小林邦宏
旅するビジネスマン。これまで行った国は100ヶ国以上。色んな国で新しいビジネスをつくるおじさん。
現在は新型コロナウィルスの影響で海外渡航制限中により国内で活動中。
オフィシャルサイト:https://kunihiro-kobayashi.com/
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Twitter: @kunikobagp
著書:『なぜ僕は「ケニアのバラ」を輸入したのか?』(幻冬舎)
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