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誘惑の多くは失敗に終わる!?テクニックを磨くより重要な「失敗の研究」

2020.11.13

 秋が深まってくれば半ば自動的に紅葉(もみじ)狩りなどのアイデアが浮かんでくるが、個人的にそうした時間がとれるかどうかはわからない。しかし特に山に出かけたりしなくとも、近場のイチョウ並木を少しゆっくり歩ければ満足できそうにも思える。さらに身近な秋といえば、やはり“秋の味覚”ということになりそうだが……。

“秋の味覚”に誘われながら大久保通りを歩く

 北新宿にある某スタジオを後にして大久保通りを歩いていた。もう陽は暮れている。最寄り駅はJR大久保駅なのだが、さっき通り過ぎたばかりでこのまま新大久保駅まで歩くつもりだ。日が沈んでからは少し冷え込んできたが、風もなく歩くにはむしろ快適である。

 飲食店や雑貨店、そしてホテルも意外に多くて相変わらず賑やかな大久保通りだが、街灯が明るいことも特徴だ。残念ながら現在は少なくなってしまった外国人観光客もこの通りなら夜でも安心して歩けそうだ。それにつけても昨年までのような“日常”が戻ってくるのはいつになるのか……。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 歩いていると新宿区からのアナウンスが聞こえてくる。いくつかの街灯にはスピーカーがついているのだろうか。アナウンスの音声は歩きタバコと吸い殻のポイ捨ての禁止を訴えている。路上をよく見れば残念ながら捨てられたタバコの吸い殻もある。

 そういえば先日、別の場所を歩いている時にまだ火がついていて燻っている吸い殻が歩道に捨てられてあるのを見つけ、靴底で踏みつぶして火を消したことを思い出した。とにかく危険である。特にこれから空気が乾燥する中、悲惨な事態に発展する可能性も少なからず高まる。

 歩きタバコや吸い殻のポイ捨てをどうすれば完全になくすことができるのか。もちろんこうしたアナウンスも効果が皆無とはいわないものの、やはり人々の意識が高まらないことには根本的な解決とはならないのだろう。

 歩きながら通り過ぎる飲食店のいくつかは“秋の味覚”を店頭のポスターやボードに表示してアピールしている。今年は高価なサンマを限界まで値下げしたと主張している居酒屋や、秋鮭にちなんでサーモンをメインにした寿司店の秋メニュー、焼きポテト系のスイーツを季節限定で提供しているカフェなどもある。今の季節にしか食べられないということであれば、率直に食べたい気分にもなってくる。

 ……駅で電車に乗る前に、この辺で何かを腹に収めていってもよかった。帰ってから少しばかりしなければならない作業があるので、残念ながらアルコールは飲めそうもない。どこかで食事だけサッと済ませて帰路に就こう。

 とすればどこに入るか。季節柄、やはり“秋の味覚”を打ち出している店ということになるのだろうか……。寿司屋を第一候補にして通りを引き返してみてもよかったが、今のところは先に進んでみる。

 サムギョプサルなどを売りにした韓国料理の店も目立つ。そういえばサムゲタンも久しく食べていない。この辺りから先へ進んでいくほどに“コリアンタウン”の色合いが濃くなっていくのだ。“秋の味覚”と並んで韓国料理もまた、普通に考えて今この辺で食べるには相応しいメニューといえそうだった。

 判断を保留したまま歩き続けてしまい、新大久保駅がもう目と鼻の先だ。駅を越えて完全に“コリアンタウン”に入ってしまうとますます選択肢が増えて収拾がつかなくなりそうな気もする。さてどうしようか。引き返してみるのもよかったが……。

 ……その時、あることに気づき、駅に達する寸前に左に折れる通りへと入ることにした。

“イスラム横丁”で初めてのメニューに挑戦

 某薬局チェーンの手前を左に折れると、少し前から“イスラム横丁”と呼ばれるようになった一角に面した通りに入る。この“イスラム横丁”に以前から気になっていた店があったのだ。

 通りを進み、某餃子チェーンの店舗を通り過ぎると、店頭で焼き鳥を焼いて売っている店が否応なく目に入ってくる。焼き鳥というにはボリュームが大きく、鶏肉の串焼きと形容したほうが相応しい代物だが、店頭には焼きたての一本を買い求めてその場で食べている者が何人もいる。

 ここで焼き鳥を立ち食いするのも一興なのだが、この店内で提供されているビリヤニというメニューが前から気になっていたことを思い出したのだ。焼き鳥を焼いている店員さんに声をかけてさっそく店内に入らせてもらう。

 先客は誰もおらず、長テーブルが4つだけの実に質素な店内で目立つのは日本語で書かれた「禁酒、禁煙」の貼り紙だ。イスラムの店ならではである。飲まないと決めている場合には誘惑がないぶんだけ却って好都合かもしれない。「野菜ビリヤニ」に「バーベキューチキン」を2本注文する。

 外で次々と焼いているだけに「バーベキューチキン」はすぐにやって来た。鶏肉を独特のスパイスにまぶして焼いた串焼きで、香りも良く食べ応えがあって美味しい。卓上に置いてあるスパイスでさらに香辛料を利かせることもできる。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 ついさっきまで“秋の味覚”かあるいは韓国料理が今宵の食事には相応しいのだと、一度は納得していたのだが結果的に自分でも意外な“伏兵”が飛び出してきてしまった。もちろん前から機会を窺っていただけに、この選択には何の問題もない。

 しかしながらこの通りを歩いていた間、あれほど“秋の味覚”と韓国料理の存在感が強まっていたのに、よくぞ土壇場で「ビリヤニ」が出てきたものである。実は我々は案外、こうした“誘惑”に心動かされないことが最新の研究でも報告されているのだ。

 英・ロンドン大学クィーンメアリー校の研究チームが2020年10月に「Trends in Cognitive Sciences」で発表した研究では、今日の社会ではあの手この手を使って人々の行動の変容を促す手筈を講じているが、一般に考えられている以上にその企ては失敗していることを報告している。当事者は効果的な行動変容メソッドを追求するよりも、いかにして失敗しているのか、その“失敗の研究”をすることのほうが重要であることを指摘しているのだ。


 研究者たちは、健康的な食事や臓器提供、税務コンプライアンスまで、社会に影響を与えるすべての分野で推進された失敗した行動介入を調べました。彼らは、あらゆるタイプの設定で採用されたあらゆるタイプの行動介入は失敗する可能性が高く、特定のタイプの介入は失敗する可能性がより高いことを示しました。

 現在の行動変容プログラムは、主に成功の促進に焦点を合わせています。この新しい研究は、介入が失敗する理由と方法の理解を深めることで、将来的に成功する行動介入を開発し、失敗する可能性のある介入に時間とお金を浪費することを回避できることを示唆しています。

※「Queen Mary University of London」より引用


 研究チームは2008年から2019年の間に発表された65の研究論文をメタ分析して8種類の失敗した行動介入を特定した。この中には行動介入が逆効果になる「バックファイア効果(backfire effect)」も含まれている。

 バックファイア効果とは例えば、ある人物の行動が変化するように促す介入が逆効果となり、ますます頑なに持説に固執させてしまうという厄介な心理的メカニズムである。“秋の味覚”や韓国料理にいったんは心を動かされたものの、もしもその“誘惑”にある種の露骨さを感じた場合、それが仇となって「自分が食べたいものを食べるんだ」と態度を硬化させる可能性もなきにしもあらずであることになる。

「野菜ビリヤニ」が届いた。記憶をたどる限り、初めて食べる料理である。このコメの細長さはある意味で驚異的だ。タイ米を使ったタイ料理のチャーハンも独特であるが、このコメはさらにエキゾチックだ。想像通り、口当たりが軽くてどんどん食べることができる。美味しい。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 自分の場合、決してビリヤニに固執していたわけではなかったが、通りを歩いていた時に感じたさまざまな“誘惑”の誘いの手には結果的には乗らなかったことになる。もちろん誘いに乗らなかったのが良かったのか悪かったのかについてはまったく別の問題だ。サーモン寿司やサムゲタンを食べる体験もそれなりに楽しめただろう。

歩きタバコと吸い殻のポイ捨てが減らない理由とは?

 外国人男性の1人客が入ってきた。自分と同じくバーベキューチキンを2本注文し、食べながらビリヤニを待っている。この男性にとってビリヤニが“ソウルフード”である可能性はかなり高そうだ。

 自分にとってのソウルフードは何かと少し考えてみるものの、フードメニューというよりは酒と肴の方に偏ってしまいそうだ。特に日本のビールと新鮮な刺身は定期的に飲食したい。しかし世界的にはきっと魚介の刺身が食べられない地域のほうが多いのだろう。その意味では自分も日本という土地に胃袋をつかまれている。

 もちろん今は飲まないことが織り込み済みであるが、このバーベキューチキンがビールに合わないはずがない。この店は宗教上の理由から禁酒禁煙になっているが、受動喫煙法の影響もあり禁煙の飲食店はひと頃よりも格段に増えた感を受ける。つい少し前まで、禁煙の居酒屋などあり得ない感じだったが変われば変わるものだ。そしてこの動きは現在のコロナ禍の中でますます進んでいきそうだ。

 とすれば当然の帰結にはなるが、喫煙者にとってタバコを吸える場所はますます少なくなってきているのは、現在進行形で進んでいる現象である。そしてこのことが少なからず歩きタバコと吸い殻のポイ捨てに繋がっている構造も見て取れる。もちろんそうした行為を擁護できる余地は皆無ではあるが……。

 そこで新宿区は大久保通りに先ほどのようなアナウンスを流し、歩きタバコと吸い殻のポイ捨てを厳に戒めているわけだが、今回のロンドン大学クィーンメアリー校の研究は、こうしたタイプの行動介入がきわめて難しいことを指摘している。社会的規範に従うようにと警告を発する行動介入は、失敗する可能性がきわめて高いというのである。

 現在、路上のあらゆる場所に「路上喫煙禁止」のマークがプリントされ、タバコのパッケージにも「警告表示」が記されているが、こうしたテキストメッセージによる警告は、失敗した行動介入のほぼ4分の1を占めるということだ。そしてこうした警告表示に不快感を感じた喫煙者の一部は、バックファイア効果によってますます喫煙に固執するようになるかもしれない。喫煙を続けることに意固地になる可能性がないわけではないのだ。

 ……あまり考えたくない種類の問題に考えが及んでしまったかもしれない。ともあれ初めて食べるビリヤニは美味しかった。「ライタ」と呼ばれるヨーグルトのソースも“味変”的に使えて飽きずに食べ切ることができた。また機会があれば別のビリヤニも食べてみたいものだが、決して個人的な“ブーム”に固執することなく、いろんなメニューを楽しみたいものである。

文/仲田しんじ

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