人々の生活様式や価値観が激変したこの半年。中でも最も大きく変わったのが男性ビジネスパーソンの“仕事着”だ。テレワーク時代の新しいビジネスファッション=「テレウェア」を提唱する紳士服チェーンの大手、株式会社はるやまホールディングス・代表取締役社長執行役員である治山正史さんに、これからの“デキる服”の選び方についてお話を伺った。
【1回目──テレワーク時代のファッション新常識=「テレウェア」とは何か?】
株式会社はるやまホールディングス代表取締役執行役員 治山正史/1964年岡山県生まれ。立教大学経済学部卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。ニューヨーク駐在を経て、家業の「はるやま商事」(当時)に入社。2003年社長に就任。
スーツから解放されたが、何を着ればいいかわからない
――テレワークとはいえ、ビデオ会議などで人目にさらされるので、自宅だからと気は抜けません。どんなことに気を付けて、コーディネートを作ればいいのでしょうか。
治山正史さん(以下・敬称略) ポイントは「きちん」と「楽ちん」のバランスをうまくとることです。テレワークで服に気を使う理由は、ビデオ会議があるからというのもありますが、服の役割を生かして、仕事のパフォーマンスを上げることにもあります。服は、仕事モードに切り替えるスイッチでもあるのです。
――スーツを着るだけで“やるぞ”と、気持ちが戦闘モードになる!?
治山 そうなんです。服は気持ちと密接に関わっています。これは相手に与える印象も同じこと。上司や取引先からの信頼を得るには、服が大きな役割を果たします。ジャケットやシャツなどのパリッとした服を着ると、気持ちが切り替わりますし、「この人は頼もしい人だ」という印象を相手に与えることができます。ただ、テレワークでの仕事場は、自宅のリビングなどになる。それなのに、フォーマルな服を着ていては、ちぐはぐですし、服のメンテナンスも大変です。フォーマルな服は素材も重く、着圧感もあるので、体に負担がかかります。
――そのために「楽ちん」の要素を足していくのですね。
治山 はいそうです。テレワークにおいては、上半身はジャケットにネクタイ、画面では見えない下半身は短パン、というコーディネートもアリなのです。
画面から見えないところは「なんでもあり」が、テレウェアの基本。
「楽ちん」ジャケットで集中力を維持
治山 テレワークが主流になってから、私たちは新しく素材を開発しました。例えばジャケットですが、ウールなどをベースにした、重厚な印象のフォーマルな生地が定番でしたが、テレワークでそれは求められていない。そこで、私たちはテレワークに最適な服は何なのかを考え、テレワークウエアのブランド『TOKYO RUN』を立ち上げました。長時間着ていても疲れず、“一枚でサマになる”ことを意識しています。このジャケット(上写真・1万5900円+税)は、200gという超軽量を実現しました。このジャケットにしたから、集中力が持続するようになったという声もいただきました。
――従来のジャケットが600g程度ですから、1/3の軽さ。着ていることを忘れそうです。
治山 仕事の合間のちょっとした家事もやりやすいように、腕や肩の可動域も広げています。『TOKYO RUN』のヒットを機に、こうした「テレウェア」を開発の主軸に据えました。秋冬用のアイテムとしては、デニムやニットなど、それまでビジネスシーンで積極的に使われなかった素材も採用しています。
テレワークにぴったりのブランド『TOKYO RUN』の代表的なアイテム。いずれも「スマイリー」のすべてを満たしている。撥水・撥油加工を施したセットアップジャケット(1万9900円+税)、速乾素材を採用したTシャツ(3900円+税)など、ラインナップは豊富。
デニムブランド『EDWIN』とのコラボセットアップジャケット(2万1000円+税)は、ドレッシースタイルにデニムライクな風合いでカジュアルテイストを落とし込んだ人気アイテム。画面ではフォーマルウエアに見えるが、近くで見るとカジュアル。着ていくうちに体になじんでいくのも魅力。
――仕事のやる気が湧き、マナーを守り、メンテナンスが簡単で、着心地がいい……治山さんが提唱される「テレウェア」は、スーツ以上に仕事がはかどりそうです。他にもコーディネートのポイントがあれば教えてください。
治山 ひとつの考え方は「引き算」です。ひたすらアイテムを引いていく……例えば、リモート会議では見えないベルトや腕時計、靴下を身に着けない。これだけでもかなり楽になります。ネクタイも同様で、上司や取引先とリモート会議をする時には着けていても、終わればすぐに外してしまってよいのです。
―――最初から結び目がついた状態になっていて、首にかけて引っ張るだけのネクタイが売れていると聞きました。
治山 はい、テレワークになってから、多くの方に支持をいただいています。ネクタイは「マナー」という文化があります。その場だけをやり過ごせばいいのです。これはジャケットも同様です。
リモートワークになってから売れている、あらかじめ結び目がついたネクタイ(4600円+税)。慣れてくると数秒で結べる。
――色については多くの人が迷うところです。せっかくだから好きな色を買いたいという意見もあります。
治山 色については多くの人が迷うのはわかります。なぜなら、今までのビジネスファッションでは黒・白・ネイビー・グレーで事足りていましたから。しかし、「テレウェア」は違います。リモート会議の画面には、限られた情報しか映りませんので、色は非常に大きな要素になってくるのです。例えば、明るいブルーなど色の入ったアイテムを取り入れると、個性が伝わりますし、印象も上がります。
テレウェアで“映え”るアイテムの代表格がギンガムチェックのシャツ。さわやかで清潔感あり、程よくカジュアルな印象をプラス。
大人の遊び心をファッションで表現
――「テレウェア」は従来のビジネスファッションの常識にとらわれない服選びの視点が必要だと感じます。
治山 はい。個性だけでなく、“遊び心”を表現しやすくなりました。オフィスに通勤していた間は、服装にも同調圧力がありました。しかし、そこから離れることができる。それならば、自分を表現する服を選ぶという視点を持つとよいですよ。
――明るい色の服を選べば、コロナうつも吹き飛ばせそうです。
治山 気分が盛り上がるデザインや、笑いが生まれるアイテムをコーディネートに取り入れるのも楽しいですよ。なかでも、遊び心を反映させやすいのはネクタイではないでしょうか。当社ではキャラクターモチーフをあしらったネクタイなどを販売していますが、コロナ禍以降から、手に取る人が増えています。
「ビジネスファッションには“遊び心”も必要」と語る治山さん。普段から写真のような面白アイテムを集めるのが趣味だそうだ。
今後のビジネスファッションは「テレウェア」が主流に
――新型コロナウイルスの感染拡大危機が終息しても、「テレウェア」はプライベートでも活躍しそうです。
治山 今回、仕事がリモートで可能だということに多くの企業が気付きました。その結果、多くの企業が、オフィスの縮小や撤退を実行しています。とはいえ、社員が同じ場所にいることは大きな意味がありますので、今後は、オフィスと自宅で仕事をする、ハイブリッドワークが主流になるでしょう。
――それまで仕事と言えばスーツが9割でしたが、その割合が逆転していくのですね。
治山 はい。だからこそ、今から“しっくりくる服”を選ぶコツを押さえたほうが、仕事はもっと楽しくなると感じます。私が提唱する「テレウエア」選びのポイント……「スイッチ」「マナー」「イージーケア」「リラックス」の「スマイリー」を満たした服は、やる気が起き、他者への敬意も表現でき、自由度が高く、着ていて気持ちがいい。人も自分もスマイル(笑顔)する服ならきっと、これからの世界を軽やかに切り開いていけると感じるのです。
取材/仲山洋平、構成/前川亜紀
テレワークのためのビジネスコーディネートBOOK
きちんと楽ちん「テレウェア」
著/はるやま商事(株)代表取締役 治山正史
テレワーク時代のビジネスファッションについて、「きちん」「楽ちん」の観点から、ビジネスウェアのプロが解説。50パターンのコーディネートを紹介している、新・ビジネス服のバイブル。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09310670
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