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「みんな違ってみんないいっていうのは、その人と同じ課題を共有すること」落合陽一氏が語るコロナ禍で前進するダイバーシティ

2020.10.29

落合陽一×日本フィルハーモニー交響楽団プロジェクトの第4弾となる『__する音楽会』(双生する音楽会)が、2020年10月13日、東京芸術劇場とオンラインのハイブリッドで開催された(10月24日に再配信予定/チケット申し込み17日まで)。同プロジェクトは「テクノロジーによってオーケストラを再構築する」というテーマのもと、2018年からコンサートイベントを開催している。

2018年、『耳で聴かない音楽会』と題し開催されたコンサートは、落合陽一氏率いるピクシーダストテクノロジーズ社が開発した、音を振動や光で伝える球体デバイス『SOUND HUG』*など、テクノロジーを介在させることで、聴覚に障がいがある方も一緒に音楽を感じられる催しとして大きな話題を集めた。JST CREST xDiversityプロジェクトで研究代表を務め、社団法人xDiversity(クロス・ダイバーシティ)にも参画する落合陽一氏に、音楽会のこと、ダイバーシティのこと、そしてコロナ禍の今思うことを聞いた。

落合 陽一
ピクシーダストテクノロジーズ株式会社(以下「PXDT」) 代表取締役CEO
PXDT共同創業者 / 博士(学際情報学)
1987年生まれ。2015年東京大学学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の短縮終了)。日本学術振興会特別研究員DC1,米国Microsoft ResearchでのResearch Internなどを経て,2015年から筑波大学図書館情報メディア系助教デジタルネイチャー研究室主宰。2017年からPXDTと筑波大学の特別共同研究事業「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」代表/准教授、デジタルネイチャー開発研究センターセンター長。

身体で感じたり、目で見たりする音楽会があってもいいと思った

──日本フィルハーモニー交響楽団とのプロジェクトは、どのようなきっかけから生まれたのですか?

落合氏:着られるスピーカーをコンセプトにした『LIVE JACKET』というプロダクトがあって、展示会でたまたまそれを体験したデフサッカー(聴覚障がいを持ったスポーツ選手がプレーするサッカー)選手・仲井健人さんがTwitterでつぶやいたのをLIVE JACKETプロジェクトを担当したTBWA HAKUHODO・宇佐美さんが見つけ、日本フィル・山岸さんに伝わりました。そして、音楽会をやろうという話になりました。音楽は時間と空間であって、別に音が鳴っていることだけが音楽じゃない。メディア装置としてのコンサートホールで、身体で感じたり、目で見たりする音楽会があってもいいなと思ったんです。

僕は作家としてはメディアアートが専門で、大学の研究者としてはヒューマンコンピュータインタラクションが専門で、音と光の共感覚とか、音で空中に触覚を作るとか、そんなことをずっとやってきた。そこから類推すると、ハプティクス(※)と音と光というのは結構近いところにある。2018年に音楽をハプティクスと光で伝える『SOUND HUG』を『耳で聴かない音楽会』のときには作った、次の『変態する音楽会』では映像の演出、たとえばバッハが映像のスコアを描いたらどうなるんだろうとか、そういうことをやりました。昨年はアートをテーマにした『交錯する音楽会』と、ダイバーシティをテーマにした『耳で聞かない音楽会2019』を、敢えて2つに分けた。後者では『SOUND HUG』のほか、富士通の『Ontenna』も使ったし、パイオニアのボディソニックもご協力いただきました。Googleの協力で音声文字認識で字幕を表示するといったこともしました。

※振動、動きなどを与えることで皮膚感覚フィードバックを得るテクノロジー。

『耳で聴かない音楽会』で『SOUND HUG』を使って音楽を楽しむ様子。
<日本フィル主催 (C)山口敦>

──まもなく開催される『__する音楽会』は、コロナ禍での新たな試みになりますね。

落合氏:演出などは楽しみにしていてほしいですが、ダイバーシティでいえば、今年は『SOUND HUG』も『Ontenna』も使いません。『SOUND HUG』はコンサートホールのようなところで使う、祝祭性のある道具なんですよ。特別な場所での特別な体験ってこのコロナ禍で失われたもので、より重要性は増していている。

例えば、うちのラボ(筑波大学デジタルネイチャー研究室)や社団法人xDiversityで開発している『OkanWatch』は、音を認識して振動するスマホアプリなんですが、スマートフォンやApple Watchのようなデバイスにインストールすれば、もう日常的に使える。音声文字認識もオープンソースのものを開発していて、ビデオ会議などで当たり前のように使えるようになっています。何か特別なデバイスを使った体験から一歩進んで、できるだけ低コストで、スマホのようにみんなが持ってるものに組み込むというのが、今のxDiversityのテーマにもなっています。

今度の音楽会は『耳で聴かない音楽会』というタイトルではないけれど、それはダイバーシティのことを気にしていないということではなくて、むしろそういうことを明示的に言わなくても、音楽会のためだけの特別なものじゃないツールが、日常的に使えるようになってきているということ。今コンサートホールに足を運ばない、運べない人が多い中で、どうやって家でオーケストラを体験できるようにするか、それが今回の音楽会の挑戦であり、面白いところじゃないかな。

https://japanphil.or.jp/concert/24296
オンライン配信では、10月24日(土)19:00から再配信が予定されている。オンライン視聴券は配信日の1週間前まで購入できる。

みんな違ってみんないいっていうのは、同じ課題を共有すること

──日常的に使えるツールが増えているということですが、すでに実用化されているものもあるのでしょうか?

落合氏:例えば音声文字変換だとか、機械学習で物事を認識するとか、スマホにはアクセシビリティ機能が組み込まれていて、実はすでに多くの課題が解決されています。視覚障がいの人もスマホを使えるし、聴覚障がいの人は文字起こしすれば対話ができる。多くの人がそのことに気づいてないだけです。一方で、ハードウェアに関しては、確かに実用化されているものはまだ少ないですね。マーケットが小さくてビジネスになりにくいこともある。だからxDiversityは、国のプロジェクトとして研究しているし、それ以外のイベントや普及のための活動は非営利でやってるわけです。

https://readyfor.jp/projects/xdiversity
一般社団法人xDiversityでは現在、クラウドファンディングを通じて「できない→できる」の、その先の世界を共につくっていく第一期サポーターを募集している。

ただ、車椅子は乗るものなのか、乗せるものなのかという視点もあって、障がいがある人「だけ」が当事者なのかといったら本当はそうじゃない。車椅子は障がいがある人が歩く代わりの移動手段として使うものではあるんだけど、一方で人類は最終的に足腰が立たなくなると、車椅子の世話になるんですよ。乗る車椅子とはひょっとしたら形も機能も違うかもしれないけど、乗せる車椅子の方がはるかに需要は多いんじゃないかと思います。

つまり何が言いたいのかというと、多様性における主語の観点っていうのはすごく重要だということ。音声文字認識を誰のために使うのかといえば、一人一人が違う。僕にとっては、こういったアプリはあくまで聴覚障がいのある方としゃべりたい「僕のため」なんです、人のためではないから当事者性が出てくる。見るための字幕なのか、見せるための字幕なのかは全然違う。そう考えるとマーケットは小さくないかもしれない。

──いつかは車椅子に乗せたり、乗せられたりする……と考えれば、誰もが当事者になると言うこともできますね。

落合氏:いつ自分が当事者になるかもしれないという観点で、僕も最初は始めたのですが、なんかそういうことでもないんじゃないかと最近は思ってます。いざというときの備えではなくて、自分と違う人と違うプロトコルで会話するっていうのは、やっぱり大切なことなんです。日常というのは硬直しやすいので。そういう意味では、外国人と話すのと一緒かもしれません。英語がうまく喋れないと、みんな負い目に感じるじゃないですか。僕は自分が手話ができないことに負い目に感じる。その辺の感覚を共有するのが重要。できないから、僕は音声文字認識の字幕を使ってしゃべっているんです。

当事者かどうかという話で言えば、例えばゼミで聴覚障がいのある学生としゃべりたい僕も当事者なんですよ。僕は聞こえない人の気持ちはわからないけど、聞こえない人に情報を伝えたい。やりたいけどできないというところに当事者性が生まれる。よく気持ちに寄り添うっていうけど、そこを目指してもダイバーシティというのは成立しないと思うんです。みんな違ってみんないいっていうのは、同じ気持ちになることではなくて、その人に関わる者としてその人と同じ課題を共有するということ。どんな関わり方でも当事者なんだけど、そういうモードで当たり前のように世の中を見てる人は、意外と少ないんですよね。

全員の耳や目がコンピューターを介する同じ条件に揃った

──このコロナ禍は、ダイバーシティにどのような影響をもたらしたと思われますか?

落合氏:ダイバーシティでいうと、コロナ禍で逆に、いろんなハードルが下がったと思います。コンピューターを介してのコミュニケーションが当たり前になって、コンピューターへの話し方が上手くなった。音声文字認識の精度は明らかに上がったし、僕自身、聴覚障がいのある学生としゃべるスピードが早くなった。視覚障がい者も以前ほどはハンデを感じていないかもしれない。全員の耳や目が一度コンピューターを介するという同じ条件に揃ったことで、認識するテクノロジーを入れやすくなった。身体の障がいがある人や高齢者も、移動が少なくなればハンデは少なくなりますし、キャッシュレス、通販デリバリー、デジタルトランスフォーメーション、大切なことです。

例えば、フィジカルな会議をやるにしても、ひとりリモートの人がいたら、ビデオ会議も一緒にやるという選択ができるようになった。これは重要な一歩だと思います。条件が異なる人がいたら、デバイドがある側、マイノリティー側へ揃えた方がいいということが、少なくてもデジタルではみんなそれがわかってきたと思う。言い換えれば、ダイバーシティって何かっていうことが、本質的にわかるようになってきたということです。これは大きいと思います。

──コンピューターを介した認知の進化にはAIの貢献がありますが、今後私たちがAIと向き合っていく上での課題は何だと思いますか?

落合氏:ツールとしてはどんどん便利で使いやすくなっている一方で、気になってることもあります。例えば、カメラで捉えたものを認識して読み上げてくれるデバイスは、視覚障がいのある人にとってすごく便利なものだけど、場合によってはクレジットカード番号なども読めてしまう、聴覚補完のデバイスはプライベートな会話まで丸聞こえにしていく。目と耳の間に情報インターフェースを挟むっていうのはそういうことで、すごくセキュリティとかプライバシーへのリスクも高いということをどう捉えるか。プライバシーに対する考え方は国や文化によっても違うだろうし、いろんな意見があってしかるべきだと思うけど、この課題を解決しないと使ってもらえないかもしれないとは思います。

これはダイバーシティだけに限ったことではなくて、顔認証でドアが開くとか、コーヒーを自動で淹れてくれるとか、よく未来の生活の映像に出てくるけど、顔認証で体温を測られて、コーヒーの前にPCR検査されて、そのまま病院へ直行という世界もありえる。どちらも技術は一緒なわけです。個人の私権と公衆衛生の観点から、社会制度をどう設計し直すかみたいな話って、スマートシティとすごく近いところにある。そういう議論はこれからいろんなところで、たくさん出てくると思います。しかし、一気に変えるときに一気に変えることが必要だと僕は思っています。

『SOUND HUG』は現在、KDDIのコンセプトショップ「GINZA 456」のショールームに展示されており、誰でも体験することができる。

*「SOUND HUG」は、ピクシーダストテクノロジーズ社の商標です。

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取材・文/太田百合子

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