
コロナ禍を受け、人々の住みたい街は変化した。いま、どのエリアが狙い目なのか。人々の関心度が分かる統計データとともに、不動産のプロからアフターコロナを見据えた人気のエリアと不動産の選び方を、不動産売買も含めた視点で解説してもらった。
不動産情報掲載サイト閲覧数の多いエリアはコロナ禍でどう推移したか
今回、話を聞いたのは住まいに関する総合情報サイト「SUUMO」の編集長の池本洋一さんだ。
【取材協力】
池本洋一さん
リクルート「SUUMO(スーモ)」編集長
1995年リクルート入社。住宅領域にて編集を4年、営業を7年経験、2006年首都圏『新築マンション』フリーペーパー地域版の創刊リーダー、2007年『住宅情報都心に住む』編集長。2008年『住宅情報タウンズ』編集長、2011年『SUUMO』編集長(現職・主務)、SUUMOリサーチセンターセンター長(2019年より兼務)。内閣官房 日本版CCRC構想有識者会議委員、経済産業省ZEH(ゼロエネルギーハウス)ロードマップフォローアップ委員。国土交通省社会資本整備審議会住宅宅地分科会臨時委員、環境省賃貸住宅における省CO2促進モデル事業評価委員などを歴任。
まずはSUMMOの2020年1月と5月の新築戸建て、中古戸建て、中古マンションそれぞれのPV数の推移を見ていこう。
SUUMO閲覧エリア数 2020年1月(コロナ前)と5月(コロナ後)の伸び率上位20位
●新築戸建て
●中古マンション
●中古戸建て
「SUUMOの新築戸建て、中古戸建てコーナーでの、物件画面の閲覧ページ数の伸び率をみると、コロナ前後で特に大きく伸びているのは、ほとんどが郊外の行政区で、東京の街はTOP5に一つも入っていません。例えば、新築戸建ては浦安市(千葉県)、逗子市(神奈川県)、吉川市(埼玉県)、千葉市中央区(千葉県)、川崎市多摩区(神奈川県)など、都心に通える範囲の“近郊外”が上位を占めています。
中古戸建てでは、木更津市(千葉県)、館山市(千葉県)、三浦郡葉山町(神奈川県)、那須郡那須町(栃木県)、逗子市(神奈川県)などが上位に入り、遠方のリゾートエリアともいえる街の注目度が高まっているようです。こちらは、二拠点居住も視野に入れた動きも含んでいると考えられます」
上位をみると郊外に興味関心が移っている傾向があるが、契約者のデータで見ると都心から郊外にさほど大きな移動は起きていないという。郊外の中でも特徴がある地域に人気が集まっている状況だそうだ。
コロナ禍で特に人気が上がったエリアはどこ?
コロナ禍を受け、特にどのエリアの人気が上がったのだろうか。その背景も聞いた。
「人気が上がったエリアは、神奈川の湘南エリアや千葉の房総エリア。自然が豊かで、程よい生活利便性もあり、住民間交流も盛んなため、住民満足度も高いエリアです。
また新築分譲マンションでは豊洲や勝どきのような東京湾岸エリアの来場、契約が好調です。都心のマンション価格が高騰する中、都心至近でまだ買える価格ですし、広い住戸も多く、道が広く、公園も整備され、ベイサイドのリゾート性もあるところが評価されています」
「人気が上がった背景としては、テレワークの定着で通勤がなくなる、あるいは頻度が減る人たちが増えているのが追い風になっています。またステイホームにより、広さを求める人たちが増え、価格が安い郊外に目を向いていることがあると考えられます。住宅平均価格は、都心部が高騰する一方で、郊外は横ばいか安くなっています」
コロナ禍で不動産選びのポイント
コロナ禍を受け、不動産を買いたい場合、エリアはどんなことに気をつけて選べば良いか。池本さんは次のように話す。
「街の在住時間が伸びる中で、街の中の快適性やコミュニティができやすい環境を意識するとよいと思います。街での食事・遊び(映画館等)・学ぶ(図書館等)がオールインワンでそろっている郊外の中核都市も注目できます」
「特におすすめは、これらの中核都市を日常使いできる各駅停車駅です。地域の人しか乗り降りしないことから、感染面での安心と、地元の飲食店も基本的に街の人しか使わないため、知り合いもできやすいといったメリットがあります。SUUMOが最近実施した『住民に愛されている街ランキング』結果からも『人気駅の隣駅』の住民満足度が高いことがわかっています。例えば、下北沢駅の隣の東北沢駅、自由が丘駅の隣の緑が丘駅などです」
不動産購入の狙い目エリア
では、2020年10月初旬の今、不動産を購入するときにはどのエリアがねらい目なのか。
1.奥沢、緑が丘、東北沢
「これらのエリアは、隣町に自由が丘、下北沢を有しますが、先述の通り最寄り駅はほぼ住民しか下りないため、感染リスクの点で安心です。また街のレストランにも街の人がほとんどで、知り合いできやすいですね。街の価値とはハードだけでなくソフト、つまり住民と住民の活動も大切です。また台地の上となり、災害にも強いです。自主防災組織なども地域の人が町を守る努力しているのも注目です」
2.高松、加茂宮
「高松は立川駅近くの駅で、かなりおすすめ。立川は街の進化がすごいんです。立川市の1/25の土地を持つ地主が街の価値を高める開発をしています。加茂宮は大宮近くの駅で、街に大規模商業施設、大病院、図書館等があるのにもかかわらず、マイナーなので安いのが特徴です」
withコロナの不動産トレンド
コロナ禍を受け、不動産関連ではどのようなトレンドがあるのか。3つのトピックスを挙げてもらった。
1.住み替えニーズの高まり
「新型コロナウイルス感染拡大を経て、住み替えニーズが高まっています。特に新築戸建てが好調。SUUMOの閲覧も伸びていますし、過去最高の月間契約件数となった新築戸建ての供給大手の会社も出ています。
また戸建てが伸びている背景は、賃貸住宅に対する遮音・断熱、日当たりといった性能不良への不満があります。賃貸での騒音クレームが前年の2倍~5倍にまで増加しているのです。さらに、在宅ワークに伴う仕事スペースの確保など、より広い家を求めるニーズが考えられます。賃貸でも、今後は性能面に意識した住まいを重視していく必要性があります」
2.いまは“売り時”
「いまは購入希望の問い合わせに対して、売り物件が追い付いていない状況にあります。売るタイミングとしては決して悪くない環境です」
3.「職住融合」のトレンド
「テレワークが加速したことで、自宅にワークスペースを取り入れる動きが加速しています」
これから住むエリアや不動産の売買を検討する際には、これらの不動産トレンドや人気のエリアを踏まえるとよさそうだ。
【参考リンク】
SUUMO「SUUMO売却査定」
https://suumo.jp/baikyaku/
取材・文/石原亜香利